ファイナンス 2020年11月号 No.660
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文「(中略)沖縄県民斯く戦えり。県民に対し、後世特別の御高配を賜らんことを。」*19地元紙の琉球新報の連載「沖縄振興を問う」(2020年3月20日より連載)の第2回(同年3月21日)の大見出しは、「揺らぐ『償いの心』」であった。〇冷静でトータルなかたちでの比較の重要性~47都道府県、福岡、奄美、北海道、ハワイ、シンガポール、台湾、モーリシャス*20‥などときちんと厳密につきつめて比較してみるという取り組みに乏しい。「全47都道府県幸福度ランキング2020年版」(監修:寺島 実郎,編集:(一財)日本総合研究所、日本ユニシス株式会社総合技術研究所)の総合ランキングは、1つのトータルな観点を提供するものだろう。沖縄県は回を重ねるごとに1位ずつ順位を上げ、2012年版の47位から今回は44位となった。異文化交流の進展などから「文化」の上昇が目立つ。ただし、仕事、生活のランキングは沖縄は47位、教育は46位である。ちなみに総合ランキングで、45位青森県、46位大阪府、47位高知県となっている。また、最下位の1人あたり県民所得については、全国比7割ということはよく知られている。しかし、中身を隣県の鹿児島県と比較してみると、県民所得を構成する項目のうち企業所得がかなり少ないということがわかる(図表10)。県民経済計算の中身に*19) http://kaigungou.ocvb.or.jp/kaigungou/wp-content/uploads/2020/03/denbun.pdf*20) モーリシャス(人口:126.5万人(2018年、世銀)、面積:2,040平方キロメートル(ほぼ東京都大))は、インド洋に浮かぶ島国(「インド洋の貴婦人」といわれる)で、独立後、まず、繊維産業の育成に成功。2006年より経済構造調整改革を進めており、従来の伝統的産業である砂糖生産、繊維産業及び観光産業に頼る経済からの脱皮を図るため、IT産業への投資や国際金融センターの設置等を積極的に進めている。また外国直接投資の誘致に力を入れており、投資環境整備に取り組み、近年世銀Doing Businessランキングはアフリカで第一位を維持している。アフリカ諸国を中心とした投資協定の締結も積極的に進め、アフリカへの投資拠点となることを目指している。不幸にも今般の日本船籍の船舶による海洋汚染で日本でも広く知られるようになったモーリシャスは、沖縄県と面積・人口がほぼ同規模である。繊維産業からオーソドックスに工業化を展開してきたモーリシャスの取り組みについてもっと注目したい。*21) 経済発展の鉄則として、賃金が安いときには労働集約的な産業を発展させ、賃金があがれば資本集約的な産業を発展させるという「雁行形態」的発展があるが、沖縄において、このような鉄則に基づいた合理的な産業政策が採られてきたか、が問われる。*22) 「1%経済・沖縄」を下支えしているのは今も公共投資 https://mainichi.jp/premier/business/articles/20171221/biz/00m/010/020000c*23) 大木 健一・民間都市開発推進機構都市研究センター研究理事は、以下のように指摘する。 「『国土の均衡ある発展』に代わる新しい国土政策の理念を一言で表現することは難しいが、(中略)次のようになるのではないか。 1 国土全体としての競争力を維持向上させること。 2 国土のどこに居住しても一定の生活サービスを享受できるようにすること。 3 国土を適切に管理すること。 4 地域活性化は地域の責任と選択を基本とすること。」 研究報告「21 世紀の国土政策は何を目指すか――「国土の均衡ある発展」に代わる国土政策の理念を模索する――」(アーバンスタディ 49(特集:地方都市再生)2009年8月 民間都市開発推進機構都市研究センター) http://www.minto.or.jp/print/urbanstudy/pdf/u49_12.pdf*24) 両親が福島県の小高地区出身ということで、自らを東北にルーツを持つものとしていた、作家の故島尾敏雄は、「琉球弧」(島尾にあっては、奄美諸島、沖縄本島を中心にした沖縄諸島、宮古諸島、八重山諸島などをひっくるめたもの)という視点の重要性をつとに強調していた。「私の考えている日本国は琉球弧も東北も共に処を得たそれだ。殊に琉球弧、就中沖縄は一個独自の文化をかたくなに表現しつつ、どことなく風通しがよくて外に開けた世界を予想している・・」(「新編・琉球弧の視点から」(朝日文庫 1992年))という。このような、「琉球弧」の持つ伸びやかで多様な側面や、戦後台湾と切り離された「琉球弧」と、北海道という「フロンティア」がその先にある東北(振興)との対照などについては実に興味深い論点ではあるが、その検討は他日を期したい。 なお、奄美群島が、沖縄に先行して、日本に復帰したことによる、琉球弧「分断」の悲劇については、「国境27度線」(原井一郎他著 海風社 2019年11月)を参照のこと。より立ち入って分析していくことが課題ではないだろうか。図表10鹿児島県沖縄県450004000035000300002500020000150001000050000県民所得(億円)県民報酬(億円)財産所得(億円)企業所得(億円)平成29年度県民所得の構成○総花ではないメリハリをつけた振興*21~拙稿「素顔のおきなわ経済」の連載で触れたことがある*22が、沖縄では、いろいろな面で「昭和が生きている」と感じることがある。例えば、「県土の均衡ある発展」というような言葉がよく聞かれる。しかし、沖縄においても人口減少に転じることに鑑みれば、この点は発想の転換が必要ではないだろうか*23。○本島での地域ごとの分析と対策の必要性*24~沖縄の人口の2割をしめる沖縄市・うるま市の市民所得(企業所得を含む)が顕著に低い(図表11)。この二市は、人口はコンスタントに増加していて、絶対数で見るとかなり増えている。一方、失業率は高め、有効求人倍率が低めである、ということが指摘できる。人口一人当たりでなく就業者一人当たりに ファイナンス 2020 Nov.19新型コロナウイルス感染下の沖縄経済の状況及び今後の中長期的な課題について(下) SPOT

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