ファイナンス 2020年11月号 No.660
22/90

3沖縄振興振興*12を考える際のいくつかの視点(試論)沖縄振興にここ4年ほど携わってきた中で、中長期的にこの課題に取り組む際の考えの起点となりそうな論点を私見として順不同で並べてみたい。〇格差是正の意義~同じ国民である以上、「シビルミニマム」として一定の権利を保障しなくてはならない。国民統合の絆(国家の求心力)を強くするためには不可欠(日本の現行の地方財政制度の究極の目的と同旨*13)。例えば、国境離島の維持の重要性があげられる。実際、有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離*12) 沖縄振興特別措置法(平成十四年法律第十四号)の目的を規定する同法第1条は、「この法律は、沖縄の置かれた特殊な諸事情に鑑み、沖縄振興基本方針を策定し、及びこれに基づき策定された沖縄振興計画に基づく事業を推進する等特別の措置を講ずることにより、沖縄の自主性を尊重しつつその総合的かつ計画的な振興を図り、もって沖縄の自立的発展に資するとともに、沖縄の豊かな住民生活の実現に寄与することを目的とする。」としている。ここで、「沖縄の置かれた特殊な諸事情」とは、内閣府のホームページ掲載のパンフレットでは、 ・歴史的事情 先の大戦における苛烈な戦禍。その後、四半世紀(27年間)に及ぶ米軍の占領・統治。 ・地理的事情 本土から遠隔。広大な海域(東西1,000km、南北400km)に多数(約160)の離島。 ・社会的事情 国土面積0.6%の県土に在日米軍専用施設・区域の70.3%が集中。脆弱な地域経済。などとされている。あたりまえではあるが、法に基づく行政を行っているのであるから、この点は現行の沖縄振興策が踏まえている事情であることを冒頭確認しておきたい。 https://www8.cao.go.jp/okinawa/pamphlet/shinkou-2020/2020_whole_1.pdf*13) 参照:「日本地方財政史 -- 制度の背景と文脈をとらえる」(小西砂千夫著 有斐閣 2017年5月)*14) この法律は、我が国の領海、排他的経済水域等を適切に管理する必要性が増大していることに鑑み、有人国境離島地域が有する我が国の領海、排他的経済水域等の保全等に関する活動の拠点としての機能を維持するため、有人国境離島地域の保全及び特定有人国境離島地域に係る地域社会の維持に関する特別の措置を講じ、もって我が国の領海、排他的経済水域等の保全等に寄与することを目的とする。*15) 沖縄県子ども生活福祉部「沖縄こども調査」2016年、厚生労働省「平成25年国民生活基礎調査の概況」*16) 第10回県民意識調査(くらしについてのアンケート)結果(2018年実施) https://www.pref.okinawa.jp/site/kikaku/chosei/seido/h30chousa.html 重点政策の優先度で、今回の調査ではじめて項目に入れた「子どもの貧困対策の推進」が、「米軍基地問題の解決推進」を抜いて1位となった。*17) 総務省「平成26年全国消費実態調査」。嘉数啓著「沖縄:新たな挑戦 経済のグローバル化と地域の繁栄 世界の目を沖縄へ、沖縄の心を世界へ」(公庫レポートNo128 2013年3月)の図12「全国と沖縄兼のジニ係数の比較 2004年」とその解説(19頁~20頁)*18) 「昭和天皇実録」の1947年9月19日の条は、いわゆる「天皇メッセージ」を明記。 「この日午後、寺崎は対日理事会議長兼連合国最高司令部外交局長ウィリアム・ジョセフ・シーボルトを訪問する。シーボルトは、この時寺崎から聞いた内容を連合軍最高司令官及び米国国務長官に報告する。この報告には、天皇は米国が沖縄及び他の琉球諸島の軍事占領を継続することを希望されており、その占領は米国の利益となり、また日本を保護することにもなるとのお考えである旨、さらに、米国による沖縄等の軍事占領は、日本に主権を残しつつ、長期貸与の形をとるべきであると感じておられる旨、この占領方式であれば、米国が琉球諸島に対する恒久的な意図を何ら持たず、また他の諸国、とりわけソ連と中国が類似の権利を要求し得ないことを日本国民に確信させるであろうとのお考えに基づくものである旨などが記される」 井上亮・日本経済新聞編集委員は、「沖縄の切り捨て、軍事基地固定化を冷徹に容認する意見で、『実録』にしてはよくここまで載せたものです」と評する。(「昭和天皇は何と戦っていたのか」(小学館 2016年4月)) 「沖縄祖国復帰物語」(桜井 溥著 大蔵省印刷局 2000年10月)によれば、復帰後の最初の沖縄振興開発計画の原案について、以下のような回想が記される。 「いよいよ県の原案の全体像が見えてきた。ところが、唸ってしまった。それは二点ある。第一は前文のところで、『戦後長期にわたって我が国の施政権外におかれた沖縄に対し日本政府は償いを・・』とあった。金銭的な償いというよりは、誠意ある謝罪を求めるという文脈だった。『償い』(原文では強調のため句点が付く)この文字に釘付けになった。・・・結果的に、この『償い』の文字は原案からは消えた。しかし原案の元の案にあったという事実は、いかなる公文書にも残されていなくとも、それは消しがたい厳然たる事実である。沖縄県民の心は、その忘れられることを一番恐れているのだ。」 ただ、この点について、「戦後75年、サンフランシスコ平和条約(いわゆる“屈辱の日”)から68年、復帰後48年となりますが、地方行政の格差是正、例えば都道府県間の格差是正のための制度としてはそもそも地方交付税制度があり、地理的特殊性や米軍基地問題ゆえの特別措置、沖縄の優位性を全国が活用する文脈を除けば、あとは沖縄振興の正当化については、1945年の「後世特別の御高配」と1952年の占領継続への”補償”がどこまで妥当かという議論が生々しくも残されるわけです。しかし、過去の沖縄の犠牲の代償として沖縄振興を求め続けることは、世代交代が進むにつれてそこに国民の理解を得るのが難しくなっていくのではないかと思われます。」との沖縄県出身者からの率直な意見をいただいたことがある。島地域に係る地域社会の維持に関する特別措置法(平成28年法律第33号)*14が制定されている。とくに強調したいと思うのは、「子どもの貧困」問題である。子どもの相対的貧困率は、全国16.1%、沖縄は29.9%と突出している*15。沖縄の特殊合計出生率は、1.89(2018年)とせっかく生まれてくる子どもが多いにもかかわらず、貧困にさらされている。この状況改善について粘り強く取り組まねばならない*16。また、沖縄県は、フロー面でもストック面でも総じてジニ係数が高いことは知られている。ジニ係数で見る限り、沖縄県は格差が大きい県である*17。〇償いの側面*18~大田實司令官の海軍次官宛ての電新型コロナウイルス感染下の 沖縄経済の状況及び 今後の中長期的な課題について(下)沖縄振興開発金融公庫副理事長 渡部 晶18 ファイナンス 2020 Nov.SPOT

元のページ  ../index.html#22

このブックを見る