ファイナンス 2020年10月号 No.659
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上記に鑑みると、平均回収期間に相当するマッコーレー・デュレーションを(1+r)で割ることで、微分で定義した厳密な金利感応度へ「修正」していると解釈できます。そのため、この修正されたデュレーションを「修正デュレーション」といいます。2.注意点マッコーレー・デュレーションに基づけば、債券の平均回収期間で金利感応度を把握できるため、実務的にわかりやすい概念ですが、この概念は基本的には固定利付債にのみ適用される点に注意が必要です。多くの日本国債のように固定利付債であれば、10年債は「年限が10なのでおおむねデュレーションが10程度だ」と年限をベースに感応度を把握することができます*22。しかし、クーポンが期中変動する変動債の場合、年限と金利感応度(デュレーション)は一致しません*23。本文ではデュレーションを-1P∆P∆r、すなわち、債券一般に対して金利が変化した場合の価格感応度で定義しましたが、そもそも期間の概念であるマッコーレー・デュレーションを(1+r)で割ることで金利の価格感応度として解釈できるのは、式(1)のような固定利付債を考えているからです*24。もっとも、円債市場の実務ではデュレーションといった場合、マッコーレー・デュレーションや修正デュレーションを指すことも多く、ほとんど区別せずに使われていることも少なくありません。これは、ほとんどの債券が固定利付債であることから、金利感応度と年限はおおよそ近い値になるため、厳密に区別しなければならないケースが少ないことに起因すると筆者は考えています*25。ちなみに、式(2)をみると、デュレーションは金利rに依存することが分かります。仮に金利が低くなれば、式(2)におけるキャッシュ・フローを低く割り引くため、平均回収期間が長くなりますし、逆に金利が高くなると、式(2)におけるキャッシュ・フローを高く割り引くため、平均回収期間が短くなります。このようにデュレーションは金利水準にその大きさが依存するのですが、このことをコンベクシティといいます。デュレーションが金利水準に依存することは非常に重要なポイントですが、コンベクシティについては次回のレポートで詳細に説明する予定です。本文で記載したとおり、マッコーレー・デュレーションは平均回収期間ですから、割引債の場合、途中でクーポンがなく、途中で回収する部分がないですから、マッコーレー・デュレーションは年限と一致します。先ほどの例でいえば、マッコーレー・デュレーションは10年国債の場合、1P[1×c(1+r)+2×c(1+r)2+…+10×c+100(1+r)10]でしたが、10年の割引債の場合、期中のクーポンがないため、c=0とすれば下記が導出できます。DMac=1P[10×100(1+r)10]*22) 現在は発行が停止されていますが、財務省はかつて15年変動利付国債を発行していました。*23) 例えば、10年の変動債(クーポンは6か月円LIBORに連動)の場合、年限は10年ですが、デュレーションは0.5程度になります。*24) タックマン(2012)では、修正デュレーションは固定利付債におけるデュレーションの特殊なケースとして紹介しています。*25) タックマン(2012)は「マッコーレー・デュレーションDMacは今日ではあまり使用されない」(p.123)と指摘しています。BOX 3 割引債(ゼロ・クーポン債)のマッコーレー・デュレーションと修正デュレーション64 ファイナンス 2020 Oct.連載日本経済を 考える

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