ファイナンス 2020年10月号 No.659
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4.3 国債先物で評価した金利リスク量次に、実務家は先物の枚数で金利リスク量を把握していることが非常に多いことから、国債先物との比較でみた国債のリスク量について考えてみます。まず実務家は10年国債1億円のリスク量が国債先物の1枚分(想定元本1億円分)のリスク量とおおよそ同じであると頭に入れています。日本国債10年1億円のDV01は前述のとおり9.8万円ですが、先物1枚をロングした時のDV01は10.84万円であり*16、おおよそ10万円程度であることが理解できます(この数値からもわかる通り、厳密には先物1枚と10年国債1億円分のDV01は異なります)*17。例えば、10年の国債を1億円分取得した場合、金利リスクを削減するために、それを売却することでリスク量を落とすこともできます。もっとも、JGBトレーダー*18がマーケット・メイクのために国債を在庫として保有した場合は売却するわけにいきません。そこで、先物を1枚売ることで△10.84万円という金利リスク量を作り、自分が有している9.79万円というリスク量と相殺することで、リスク量を落とすことができます。服部(2020a)で強調したとおり、国債先物の重要な役割はヘッジツールの提供ですから、国債市場のマーケット・メイクで先物が頻繁に用いられています。例えば、10年国債の入札の結果、あるプライマリー・ディーラーが1,000億円の国債を在庫として保有したとしましょう。この場合、DV01は9,790万円になりますが、国債先物を903枚売ればおおよそ△9,790万円のDV01を作ることができるため、1,000億円の国債を有するとともに903枚の先物を売ることで、リスク量をゼロに近い状態にできます。これは金利リスク量という観点では、中立的(ニュートラル)*16) この値はBloombergで算出した値です。国債先物のDV01の考え方の詳細は服部(2020a)のBOX 4を参照してください。*17) 国債先物のDV01が10万円を超える理由については服部(2020a)のBOX4を参照してください。*18) 証券会社のトレーダーは債券を在庫で持ちながら、顧客にプライスを提示することで流通市場を形成しています。トレーダーでなくディーラーという表現が使われることもあります。JGBトレーダーとは、債券の中でも日本国債を担当しているトレーダーを指します。*19) ちなみに、プライマリー・ディーラーは銀行や生命保険会社などの注文を集約して入札に参加しているため、仮に1兆円落札したとしてもその落札分の大部分は投資家が保有します。その意味で、仮に特定の業者の落札額が多かったとしても、実際には落札額分の金利リスクを取っているわけではありません。*20) 服部(2020a)で説明したとおり、先物のDV01は∆P∆r×0.01%=1CF∆PCTD∆r×0.01%になります(ここでPは先物価格、PCTDはチーペストの価格、CFはコンバージョン・ファクターです)。∆PCTD∆r×0.01%は7年国債のDV01に相当します。しかし、先物のリスク量はこれに1CFを掛けた値になります。服部(2020a)で説明したとおり、現在、CFはおおよそ0.7前後になりますから、1CFはおおよそ1.4程度の値になります。したがって、先物の変化自体は7年国債に連動しますが、先物価格の動きは1CFで拡張されたような大きさで動く点に注意が必要です(その結果、先物のDV01はおおよそ10年国債のDV01に近い値になります)。なポジションであると解釈できます*19。財務省が発行する国債の発行量も先物の観点でリスク量を評価することができます。例えば、明日10年国債が2兆円発行されるとします。2兆円分の10年国債のDV01は19.6億円程度ですが、先物の枚数に換算するとおおよそ1.8万枚になります。いわば、このケースの10年国債の発行量は先物でみて1.8万枚分のリスク(DV01)の供給量があると解釈できます。図7には、今年度の国債の発行額およびDV01とともに、先物何枚分に相当する金利リスク量であるかも記載されています。注意すべき点は、以上の議論はイールドカーブのパラレルシフトを想定しているため、1年から10年金利はすべて同じように1bps上昇していると想定している点です(DV01はデュレーションと同様、パラレルシフトを想定しています)。先物は先ほどみたように10年国債とほぼ同じDV01を有しますが、服部(2020a)で説明したとおり、先物の価格の動きはその設計上、7年国債と連動する仕組みがとられています。そのため、10年国債と(7年国債と連動する)先物の価格が完全に同じ動きをするとは限りません。例えば、10年国債をロングし、先物のショートでヘッジしていたとします。仮に何らかの理由で、10年国債の価格は下がるものの、先物価格(7年国債の価格)は横ばいであったとすると、先物によるヘッジは機能しないことになります。このように国債を先物でヘッジした場合、イールドカーブがパラレルにシフトするとはかぎらないがゆえ、一定のリスクが残る点に注意が必要です(これをベーシス・リスクといいます)*20。62 ファイナンス 2020 Oct.連載日本経済を 考える

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