ファイナンス 2020年10月号 No.659
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こともできます。このような観点から、銀行が有する自己資本に対してどの程度金利リスクをとっているかを金額で把握する必要がでてくるわけです。国債を把握する上で最も典型的な金利リスク量はDV01(Dollar Value of One Basis Point)(「ディー・ブイ・オー・ワン」と読みます)です。DV01は金利が1bps(=0.01%)変化した時の価格の変化「量」を示します(デュレーションは金利が動いた時の価格の変化「率」であったことに注意してください)。そのため、下記のように定義できます。DV01=-∆P∆r×0.01%デュレーションはD=-1P∆P∆rでしたから、DV01=D×P×0.01%となります。仮に10年国債のデュレーションを9.8とすれば、10年国債を1億円保有していた場合のDV01はD×P×0.01%=1億円×9.8×0.01%=9.8万円となりますから、DV01という観点でみたこのポジションのリスクはおおよそ10万円のリスク量であることが分かります。円債市場のややこしいところは、DV01を表すうえで別の表現を用いることが非常に多い点です。特に円債市場では、DV01を「デルタ」や「ベーシス・ポイント・バリュー(BPV)」などと表現することも少なくありません*12。「デルタ」は円債市場で非常によく使われますが、そもそも「デルタ」とは教科書的に言えばオプションに関する概念であり、原資産が動いた時にオプションの価格がどれくらい変化するかを指します。国債の運用担当者は自らポジションを持っており、仮に金利が動いたらどの程度自分のポジションが動くかを金利リスク量として把握しています。そのため、金利(原資産)が変化した時の資産価値(オプション価格)の変化という意味合いで「デルタ」という表現を使っているわけです(オプションの表現を使えば、債券を金利のデリバティブと解釈しているわけです)。円債市場では「デ*12) 筆者の印象では、円債市場では、投資家の分類(外国人投資家、中央金融法人、地域金融機関等)や金融機関内での役割(トレーダーやセールス等)などによって大きく用語の使い方が異なります。違う表現を使っていても同じことを指していることが少なくない点に注意が必要です。*13) 国債発行額については財務省のウェブサイトを参照しています。先物1枚のDV01は10.84万円としています。*14) 10年国債1億円分のDV01は9.8万円ですから、29.7兆円の10年国債のDV01は、その29.7万倍ですから291億円になります。ここでのDV01はBloombergの値をベースにしています。*15) ここでは6か月の割引債のデュレーションを0.5、1年の割引債のデュレーションを1としたうえで、0.01%×1×36.9兆円+0.01%×0.5×45.6兆円という形で簡易的に計算しています。ルタ」という表現は非常に頻繁に用いられますが、筆者は大学でオプションの概念としてデルタを勉強していたため、当初戸惑った覚えがあります。4.2 日本国債のDV01の例図7は、財務省の「令和2年度国債発行計画」における国債発行額についてDV01というリスク量から評価したものになります*13。この図をみると、発行金額としては2年債が33兆円と最も多いですが、金利リスクの供給量でみれば、10年国債のDV01が291億円*14であり、最も大きいことがわかります。実は今年度の国債発行計画においては割引短期国債が82.5兆円発行されていることから、金額でみれば短期債の発行が最も大きいように思われます。ただし、割引短期国債の内訳は、1年債が36.9兆円であり、6か月債が45.6兆円であるため、(割引債については年限がデュレーションにほぼ一致することを使うと)82.5兆円の割引短期国債のDV01は59.7億円*15であり、割引短期国債の発行量は多いものの、2年~40年国債に比べて金利リスク量の供給は抑えられていることが分かります。金融機関は国際的な金融規制など様々な制約にさらされており、自らが取得できるリスク量には限界があります。投資家のニーズに沿った発行を行うことは投資家の国債の購入意欲につながり、最終的に発行体にとっては調達コストを抑えることにつながることを考えると、債務管理当局としては国債が有するリスクが年限ごとで異なってくることを理解しておく必要があります。図7 2020年度の国債発行額と金利リスク量2年5年10年20年30年40年年間発行額(兆円)3328.229.713.510.23DV01(億円)64136291257278107先物(枚数)59,363125,573268,149237,060256,41198,709注:上記は2次補正後の国債発行量です。 ファイナンス 2020 Oct.61シリーズ 日本経済を考える 105連載日本経済を 考える

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