ファイナンス 2020年10月号 No.659
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債券の回収期間に着目した金利リスク指標はMacaulay(1938)が提唱した概念であることからマッコーレー・デュレーションと呼ばれることも少なくありません。図5をみると、2年債のように短い年限ではデュレーションは年限である2に近い値をとっていますが、40年債では35.67であり、年限と比較的大きく乖離することが分かります。この理由は、一般的に年限が長い国債ほど高い金利が付される(イールドカーブ*10の傾きが右肩上がりである)ことに加え、40年債は年限が長く、途中の利払いが多いため、途中で回収されるキャッシュ・フローの割合が大きくなり平均回収期間が短くなるためです。このロジックに鑑みれば、クーポンがない債券(いわゆるゼロ・クーポン債(割引債))は途中でキャッシュの回収がないため、年限と平均回収期間は一致します(デュレーションと年限もほぼ一致しますが、詳細はBOX 3を参照してください)。もっとも、実際に取引されている割引債は日本については1年以下の短期国債など一部に限られます*11。3.3  デュレーションが想定している金利上昇のシナリオデュレーションを把握する上で大切な点は次の2点です。まず1点目は、想定している金利上昇はすべての年限の金利が等しく上昇している点です。これを示したのが図6で、イールドカーブが平行に動くことを想定しています(このような動きをパラレルシフトといいます)。もっとも、現実的にはイールドカーブがパラレルにシフトするとは限らず、例えば、1年~19年の金利は横ばいである一方、20年債の金利のみ上昇することもありえます。このようにカーブ全体の動きではなく、特定の年限の金利上昇リスクを捉える概念としてグリッド・ポイント・センシティビティ(キー・レート・デュレーション)という考え方があります(この概念は次回の論文で説明します)。2点目は、デュレーションでは微小な金利変化に伴う価格変化という思考実験をしている点です。実際の金利上昇に基づいた分析が必要な場合、実務的には過*10) イールドカーブとは横軸に年限、縦軸に金利を軸とした年限と金利を表現する曲線です。詳細は服部(2019)を参照してください。*11) 日本高速道路保有・債務返済機構が財投機関債が利子一括払いの40年債を発行するなど、日本国債以外では長期の割引債が発行されることもあります。去のデータからボラティリティを計算したり、1%の金利上昇など保守的なシナリオを想定します。特に、金利が大きく変動したシナリオを考える場合は、コンベクシティによる効果もあるため、単純にデュレーションに基づいた分析は不正確なものになる可能性があります(前述のとおり、コンベクシティについては次回詳細に説明します)。4.DV01(デルタ、BPV)4.1 DV01(デルタ、BPV)とは実際のリスク管理の現場では、デュレーションのような金利感応度をみたいわけではなく、実際に自分のポジションに対してどのくらいのリスク量を有しているかを知りたいケースが少なくありません。例えば、金融機関で運用を行う場合は、自分が取れるリスク量が制限されていることが多いことから、単なる金利感応度ではなく、自分の現在取っているリスク量(金額)そのものを把握する必要が出てきます。むろん、リスクを取らないとは何もしないことと同義なのでリスクを取ること自体は問題ないのですが、大切なことはそれが適正なリスク量であるかを把握することです。例えば、銀行が国債を運用するうえで、金利リスクを取る必要はありますが、一方で銀行はビジネスをするうえで株主から資金調達をしています。株主からの資金調達とはいわばリスクを取ってよいと考えている投資家から資金を調達することであるため、自己資本の一定割合にリスク量が収まる運用をしているならば、その金融機関は安全な運用をしていると解釈する図6 デュレーションで想定している金利上昇金利年限パラレルに金利上昇イールドカーブ60 ファイナンス 2020 Oct.連載日本経済を 考える

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