ファイナンス 2020年10月号 No.659
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債を運用している金融機関の運用担当者であり、おおよそ1,000億円の日本国債を運用していたとします。実際の運用に当たっては金利が変化した場合に自分の運用の損益がどうなるかを把握する必要があるのですが、デュレーションを把握すればそれを簡易的に計算することができます。例えば、読者が1年から40年まで様々な償還年限の国債を持つものの、もし平均的な年限がおおよそ5年であれば、仮に1%金利が上昇した場合、金利の変化の5倍だけ国債の価格が落ちることになります。そのため、おおよそ1,000億円×5×1%=50億円の損失という形で、金利が上昇した時の損失を簡易的に計算することができます*7。仮にこの金融機関が長期債への投資を積極化するなどして、保有する国債の平均的な年限を7年に伸ばしたとします。平均7年であれば1,000億円×7×1%=70億円が金利上昇時の損失となり、平均5年の場合に比べて損失額(リスク量)が増加します。反対に年限を2年に短縮すれば1,000億円×2×1%=20億円の損失ですから、年限を長くするほど金利が上昇した場合の損失が大きくなることが確認できます。ここでは金利の上昇を例にしましたが、金利が低下した場合は、その逆に利益を得ることができます*8。このことからも、デュレーションを伸ばすことはリスクは高いですが、リターンも高くなりえることがわかります。金融機関がどの程度金利リスクを取っているかを把*7) 厳密にはコンベクシティがあるため、この計算は少し粗い推計になっています。ここではわかりやすさを重視するため、コンベクシティがないケースを想定しています。コンベクシティについては次回の論文で説明することを予定しています。*8) 例えば、保有している国債(1,000億円)の年限が5年であり、金利が1%低下した場合、50億円の利益が得られます。握する場合、金融機関の有するデュレーション(年限)をみることが一案です。図3は日銀が作成している「金融システムレポート」の抜粋で、大手行、地域銀行、信用金庫の貸出や債券の平均年限(平均残存期間)を示しています。例えば図3の左図は大手行の債券の平均残存期間が示されていますが、おおむね上昇傾向であることが分かります。このことは地域銀行および信用金庫も同様であり、日本の銀行は資産サイドの金利リスクを概ね増加させていることがわかります。また、大手行に比べ信用金庫の方が平均残存期間が長く、金利リスク量は相対的に大きいと判断できます。もっとも、金融機関が有する金利リスク量を正確に把握するためには、金融機関が有する負債側の年限も把握する必要があります。実際、図3には調達サイド(負債サイド)の年限に加え、期間ミスマッチも記載されています。このように資産と負債のバランスで金利リスクの管理を行うことをAsset Liability Management(ALM)といいますが、ALMの概要についてはBOX 1で説明します。図3 業態別でみた資産および負債の平均残存期間(注)1.「期間ミスマッチ」は資産と負債の平均残存期間の差。資産の平均残存期間は、貸出、債券、金利スワップ受分の加重平均値。負債の平均残存期間は、調達、金利スワップ払分の加重平均値。2. 2018 年度の計数は 2018 年 12 月末の値。(資料)日本銀行-101234567101112131415161718(年度)(年)大手行-101234567101112131415161718(年度)(年)地域銀行-101234567101112131415161718(年度)運用超調達超(年)信用金庫期間ミスマッチ貸出債券調達 ファイナンス 2020 Oct.57シリーズ 日本経済を考える 105連載日本経済を 考える

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