ファイナンス 2020年10月号 No.659
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時の)投資のリターン(利回り)が10年にわたり固定されることになりますから、仮に10年金利が上昇した場合、その影響は10年間に及ぶことになります。デュレーションの長い国債の金利リスクが大きい直感はここにあります。このことを数値で確かめるため、ここで先ほど取り上げた1年債とは異なり、読者がクーポン1%の10年国債へ100円投資したケースを考えましょう。この場合、10年間毎年1円の金利を受け取りますから、図2の上図のとおり、10年で合計10円の利子収入が得られます*5。仮にこの10年国債に投資した直後に1%であった10年金利が2%へ上昇したとしましょう。先ほどの1年債の例と同じく1%上昇した場合、10年債の価格はどれくらい調節されるでしょうか。利回り2%の10年債に投資した場合、2円を10年間受け取れるので、図2の下図のように、合計20円の利子収入が得られます*6。一方、読者が保有している10年国債のクーポンレートは年率1%であるため、合計10円の利子収入にとどまり、その収益差は10円(=20円-10円)となります。これに対して、例えば、クーポンが1%の10年債であっても、(100円から価格が10円低下した)90円で投資できるのであれば、投資家は(1)利子収入から10円得られるだけでなく、(2)価格の上昇で10円の利益が得られますから、合計20円の収入が得られます。その意味で、1%*5) ここではわかりやすさを重視するため、期中得られる利子の再投資は捨象しています。*6) ここではわかりやすさを重視するため、期中得られる利子の再投資は捨象しています。のクーポンの10年債が2%のリターンを生むには、価格が90円まで低下する必要が生まれます。すなわち、10年債の金利が1%上昇した場合、価格は100円から90円へ低下することになるわけです。1年債の時とは異なり10年債のケースでは、同じ1%の金利上昇でも価格が1円から10円と10倍大きく低下したことに読者は気づかれたと思いますが、年限の長い国債を購入して金利が上昇した場合、その分の下落率が大きくなる本質はここにあります。10年債の場合、投資した瞬間に10年間の収入が固定されるため、市場環境が変わった場合、長期にわたり影響を受けるがゆえに価格が大きく調整される必要が生まれるわけです。初学者が持つべきイメージは、国債のような固定利付債の場合、デュレーションとは債券の年限であり、年限は金利の変化に関する価格感応度(金利が動いた時、どのくらい価格が動くか)におおよそ一致するということです。この例からもわかる通り、仮に金利が1%動いた場合、1年債の価格は1%変化しますが、10年債の価格はその10倍である10%変化するため、デュレーション(年限)の長い債券は高い金利リスクを有するのです。2.3 デュレーションの使用例金利感応度を把握することは金利が変化した際の損益を把握することにつながります。例えば、読者が国図2 金利上昇時のキャッシュ・フローのイメージ(10年債のケース)……合計20円の利子収入1年目10年目(満期)2円2年目2円3年目2円2円+100円利回り1%の10年国債が1%金利上昇したケース金利が1%から2%へ上昇……合計10円の利子収入1年目10年目(満期)1円2年目1円3年目1円1円+100円利回り1%の10年国債のキャッシュ・フロー時価で評価した場合10円分(10%)の価格低下56 ファイナンス 2020 Oct.連載日本経済を 考える

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