ファイナンス 2020年10月号 No.659
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め、仮に、読者が1年債に投資した直後に、1年債の金利(利回り)が1%から2%に上昇したとしましょう。これは市場には利回り2%の1年国債が流通していることを意味します。金融市場では同じ金融商品には同じリターンが付されるようプライシングされますから(これを一物一価の法則といいます)、先ほど読者が保有した1%のリターンを生む1年国債(年間1円のクーポンを生む1年国債)は利回りが2%になるように価格が調整されなければなりません*4。それでは価格はどれくらい調節されるでしょうか。利回り2%の1年債に投資した場合、1年後に2円を受け取れるので、2円の利子収入が得られることが分かります(図1の右図参照)。一方、以前投資したクーポン1%の1年債が生み出す利子は1円にとどまり、市場で取引されている1年債との利子の差は1円(=2円-1円)になることが分かります。もっとも、仮に1円のクーポンを生み出す1年債であっても、(100円から価格が1円低下した)99円で投資できるのであれば、投資家は(1)利子収入から1円得られるだけでなく、(2)価格の上昇で1円(1年国債は満期で100円で償還されます)の利益が得られますから、合計2円のリターンが得られます(つまり、クーポン1%をもたらす1年債を投資家が99円で投資できるのであれば2%の利回りの1年債と収益が均等化します)。その意味で、当初100円で購入した1%のクーポンをもたらす国債が2%のリターンを生むには、価*4) このように現在の市場価格で評価することを時価評価といいます。格が99円まで低下する必要が生まれます(つまり、1%金利上昇した場合、価格は1円低下します)。2.2 金利リスクと契約の期間の関係このように国債の価格と金利は逆の動きをしますが、国債の投資家からすれば金利が動くことで保有している国債の価格が動くことから、金利の変動はいわば国債の投資リスクとして認識されます。前述のように、このリスクを「金利リスク」といいますが、国債の金利リスク量を測るうえで最も用いられる指標はデュレーションと呼ばれるリスク指標です。そもそもデュレーションは期間を示す概念であり、期間がリスク量を示すといわれても最初はピンとこないかもしれません。しかしよく考えれば、私たちが何か契約を結ぶ際、長期にわたる固定契約を結んだ場合、仮に契約後に市況が変わると、契約が固定されているため変化の影響を長期にわたり受けることがわかります。その意味で、長期の固定契約はそもそも環境変化に対して大きな影響を受ける契約と解釈することができます。このように考えると、年限の長い国債が高い金利リスクを有することが直感的に理解できます。ほぼすべての国債が固定のクーポンを支払う固定利付債であることを考えると、長い年限の国債を購入するとは、長い期間、日本政府に固定金利で資金を貸すことですから、まさに長期契約と解釈できます。例えば、10年国債を購入した場合、その時点で(満期まで保有した図1 金利上昇前後のキャッシュ・フローのイメージ(1年債のケース)100円100円1円1年目(満期)2円の利子収入2円②1%金利上昇したケース(2%の1年債のケース)100円100円1円1年目(満期)1円の利子収入①1%利回りの国債のケース利子収入が1円異なる。1%金利が上昇した場合、クーポン1%の1年債の価格は1円低下。金利が1%から2%へ上昇 ファイナンス 2020 Oct.55シリーズ 日本経済を考える 105連載日本経済を 考える

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