ファイナンス 2020年10月号 No.659
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html金利リスク入門―デュレーション・DV01 (デルタ、BPV)を中心に―東京大学 公共政策大学院、財務総合政策研究所服部 孝洋*1シリーズ日本経済を考える1.はじめに金利リスクとは、金利が変動することにより国債の価格が変化するリスクです。財務省は償還期限が1年以内の短期国債に加え、2年債から40年債まで様々な年限の国債を発行していますが、実は年限によってその金利リスク量が異なります。国債の安定消化は国債の投資家である金融機関の状況に依存しますが、金融機関はリスク管理や金融規制の観点から、自らがとることができるリスク量に上限があります。その意味で、国債の安定消化を理解するうえで、国債の有する金利リスクがどの程度であるかを適切に理解しておく必要があります。これまで日本国債の金利リスクについては「ファイナンス」で様々な角度から取り上げてきました。本稿は金利リスクに絞ってその内容を深掘りすることを目的としています。具体的には金利リスクの基本であるデュレーションとDV01(デルタ、ベーシス・ポイント・バリュー(Basis Point Value, BPV))について取り上げますが、本稿では出来る限り日本国債における実務の観点で、その内容について説明します。*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。*2) 逆に、投資家が国債を買いたいと思わなければ、国債の価格は下がり、政府は高い金利を付すことで投資家の購買意欲を高める必要があります。*3) ここではわかりやすさを重視するため、期中得られる利子の再投資は捨象しています。2.デュレーション2.1 国債の金利と価格は逆の動き債券の初学者が最初に躓く点は、国債の金利と価格が逆の動きをする点です。日本政府は国債を発行することで資金調達をしていますが、具体的には銀行や生命保険会社などが国債を購入することで金融機関の有する資金が政府に流れています。銀行や生命保険会社が積極的に国債に投資することは政府にとって資金調達が容易になることを意味します。仮に多くの投資家が国債を保有したいと考えた場合、国債の需要が増大するので、国債の価格が上がります。一方、政府の側から見れば、多くの投資家が国債を保有したいと思うのであれば低い金利で資金調達をすることができます*2。これが、価格と金利が逆の動きをするメカニズムの直感的な説明です。この関係をもう少し厳密に考えてみます。例えば、読者がクーポンが1%の1年国債に100円投資した場合を考えてみましょう(図1の左図参照)。この場合、1年経過後、政府から金利が1円支払われると同時に、投資した元本である100円も返済されます。100円投資したものが1年後100円で戻ってきて、1円の利子(クーポン)がもらえるのですから、この投資に係る年間のリターン(利回り)は1%になります*3。ここで、金利上昇と国債の価格の関係を考えるた10554 ファイナンス 2020 Oct.連載日本経済を 考える

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