ファイナンス 2020年10月号 No.659
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コラム 経済トレンド76大臣官房総合政策課 課長補佐 兼 経済動向調査官 松井 正太コロナ禍における企業活動と今後の課題~企業収益・設備投資・資金調達の動向~本稿では、財務省が公表している「法人企業統計調査」や「法人企業景気予測調査」等を通じて、新型コロナウイルス感染症による企業活動への影響と今後の課題について考察した。コロナ禍における企業収益と設備投資・感染症による外出自粛等の影響を大きく受けた2020年4-6月期の企業収益をみると、売上高は前年同期比▲17.7%とリーマンショック時(2009年1-3月期:▲20.4%)に次ぐ過去2番目の大きな落ち込みとなり、経常利益は▲46.6%と11年ぶりの減益率となっている(図表1)。・規模別でみると、売上高は大・中堅・中小企業ともに同程度の低下であるのに対して、経常利益は大企業が前年同期比▲30.6%、中堅企業が▲60.1%、中小企業が▲79.6%となり、損益分岐点比率の高い中小企業(=売上高の急減に対する耐性が弱い)ほど、利益が急速に減少している(図表2、3)。・経常利益を業種別でみると、サービス業や運輸業、輸送用機械のマイナス寄与が大きい(図表2)。・設備投資は前年同期比▲11.3%となり、サービス業を中心に10年3か月ぶりの減少率である(図表1)。足もとの業績低迷や将来の不確実性を背景に、企業による投資が抑制されている可能性がある。図表1 企業収益と設備投資▲1501530▲304520072008200920102011201220132014201520162017201820192020(前年同期比:%)▲60060120▲120180(前年同期比:%)売上高設備投資経常利益【右軸】2020年4‒6月期売上高 ▲17.7%設備投資 ▲11.3%経常利益【右軸】 ▲46.6%図表2 経常利益電気機械情報通信機械輸送用機械非製造業建設情報通信運輸、郵便卸売小売不動産宿泊飲食サービス生活関連娯楽赤転赤転赤転赤転赤転赤転赤転生産用機械金属鉄鋼石油・石炭化学食料品製造業中小企業中堅企業大企業全規模▲80▲60▲40▲20▲1000前年同期比(%)全産業製造業非製造業図表3 損益分岐点比率損益分岐点売上高(=利益がゼロとなる売上高)実際の売上高損益分岐点比率=安全性が高い安全性が低い607080905010019851990199520002005201020152020(%)大企業中堅企業中小企業(注)図表1,2,3:金融業、保険業を除く。 図表2,3:大企業は資本金10億円以上、中堅企業は資本金1億円以上10億円未満、中小企業は資本金1000万円以上1億円未満。図表3:損益分岐点売上高=固定費÷(1-変動費率)、変動費率=変動費÷売上高、変動費=売上高-経常利益-固定費、固定費=人件費+減価償却費合計+(営業外費用-営業外収益)、各項目は後方4四半期合計。(出典)財務省「法人企業統計調査季報」今後の企業収益と設備投資・2020年度の企業収益と設備投資計画は、全体として、前年度比で減少する見込みである(図表4)。・ただし、設備投資の中でも、ソフトウェア投資については、底堅く推移する見込みとなっている。ソフトウェア投資の設備投資全体に占める割合は、直近20年ほどの間に、約4%から10%まで上昇しており、今後も設備投資全体を下支えしていくことが期待される(図表4、5)。・企業における設備の過不足感(設備判断BSI)は、2020年9月末時点で下げ止まりの兆しがみられている。企業の業績悪化を受けて、設備投資はこのところ弱い動きとなっているが、少なくともリーマンショック時ほどの急激な落ち込みとなる可能性は低いと考えられる(図表6)。図表4 2020年度計画(前年度比:%)売上高経常利益設備投資ソフトウェア全産業▲ 6.8▲ 23.2▲ 6.83.5大企業▲ 6.3▲ 16.40.85.4中堅企業▲ 4.9▲ 30.0▲ 3.27.8中小企業▲ 8.1▲ 32.9▲ 23.3▲ 10.1図表5 ソフトウェア投資の推移0.40.81.21.60.02.02002200320042005200620072008200920102011201220132014201520162017201820192020(兆円)24680102.412(%)ソフトウェア投資(製造業)ソフトウェア投資(非製造業)ソフトウェア投資/設備投資全体【右軸】図表6 設備判断BSIと設備投資額200420052006200720082009201020112012201320142015201620172018201920202021▲15▲10▲50▲205(%ポイント)510152002515103530(兆円)設備投資額(全規模)【右軸】設備判断BSI(大企業)設備判断BSI(中堅企業)設備判断BSI(中小企業)「不足」超見通し「過大」超(注)図表4,6:大企業は資本金10億円以上、中堅企業は資本金1億円以上10億円未満、中小企業は資本金1000万円以上1億円未満。設備投資はソフトウェア投資額を含む、土地購入額を除く。 図表4:売上高は金融業、保険業を除く。数値は2020年7-9月期調査時点の見込み。 図表5,6:設備投資額は季節調整値であり、金融業、保険業を除く。(出典)内閣府・財務省「法人企業景気予測調査」、財務省「法人企業統計調査季報」48 ファイナンス 2020 Oct.連載経済 トレンド

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