ファイナンス 2020年10月号 No.659
49/84

コラム 海外経済の潮流130大臣官房総合政策課 調査統計官 広田 太志ドイツ経済の現状と見通しドイツの名目GDP(2019年)はユーロ圏全体の約3割を占めており(図1)、ドイツ経済がユーロ圏経済に与える影響は大きい。そこで本稿では、ドイツ経済の現状と先行きについて概観することとしたい。まず、ドイツの2020年の実質成長率をみると、第1四半期は前期比▲2.0%(年率▲7.8%)・第2四半期は同▲9.7%(年率▲33.5%)*1となり、いずれも新型コロナウイルスの感染拡大の影響を受けマイナスとなった(図2)。とくに、第2四半期の成長率は、四半期ベースの統計開始(1970年)以降で最大のマイナス幅となり、2008年~09年の世界金融危機時よりも大きく下落した*2。需要項目別の内訳をみると、政府支出と在庫投資が前期比でプラスとなったものの、その他の項目はいずれもマイナスとなり、とくに、個人消費が前期比▲10.9%・総固定資本形成が同▲7.9%(うち、設備投資が同▲19.6%)と大きくマイナスとなった。このように、ドイツの成長率は2020年の第1・第2四半期にいずれもマイナスとなったものの、足元では経済指標に改善がみられる。企業景況感を表すPMIについては、7月から連続して、好不況の境目である50を上回っている(図3)。さらに、小売売上高・鉱*1) 年率については、筆者試算。*2) 2009年第1四半期の実質成長率は前期比▲4.7%であった。工業生産も、4月で底打ちした後、持ち直しの動きがみられる(図4~5)。しかしながら、ドイツ経済の先行きについて楽観は禁物である。ドイツの中央銀行であるドイツ連邦銀行は、2020年8月の月報において、「ドイツ経済は第3四半期に回復するだろう」としつつも、「経済は依然としてパンデミック前の水準には程遠い状態が続く」と指摘した。ドイツ連銀は経済の下押し要因として、(1)世界では感染が拡大しておりドイツの輸出に悪影響を及ぼしていること、(2)感染をめぐる強い不確実性が企業の投資マインドを毀損していること、(3)効果的なワクチンが開発されるまで国内のサービスセクターが制限されること、を挙げている。とくに、(1)の輸出については、ドイツ経済への影響が大きいと考えられる。ドイツの名目GDP(2019年)を需要項目別にみると、輸出(財・サービス)は46.8%と大きなシェアを占めている(図6)。足元のデータによると、輸出は前月比では改善が続くなど、底打ちしたとみられるものの、前年比では▲10.9%(7月)と、コロナ前の水準には程遠い状態である(図7)。さらに、ドイツの主要輸出先(上位5か国)について輸出増加率をみると、3位の中国向け輸出が6月には前年比プラスに転じたものの7月には再度マイナスとなったほか、その他4か国向けの輸出は依然として前年の水準を下回っている(図8~9)。対中輸出に加え、対欧米輸出が回復しないことにはドイツの輸出が回復したとは言えず、今後の外需動向にも注意が必要である。一方、足元のドイツ経済を支える要因として、ドイツ政府が実施する各種の経済対策がある。新型コロナウイルスによる経済落ち込みに対処するため、2020年3月以降、ドイツ政府は、企業向け資金支援などを実施してきた。これらの対策が景気を下支えしているも(図1)ユーロ圏の国別GDP割合ドイツ28.9%フランス20.3%イタリア15.0%スペイン10.4%その他25.3%ユーロ圏名目GDP(2019年)11.9兆ユーロ(出所)ユーロスタット ファイナンス 2020 Oct.45連載海外経済の 潮流

元のページ  ../index.html#49

このブックを見る