ファイナンス 2020年10月号 No.659
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1はじめに日曜日の夜になると、テレビに白髪で黒縁の眼鏡のおじさんが「ハイ皆さん、こんばんは」と出てきて、これから放送する映画を紹介し、映画が始まる。映画が終わると、そのおじさんが映画の裏話などを交えて「楽しいですね、面白いですね。」と独特の言い回しで解説。最後の「それではまた来週をお楽しみ下さい。サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ。」のフレーズを聞くと週末も終わりかという感じが漂った。このおじさん、映画評論家の淀川長治、映画文化の発展に功績のあった人・団体に贈られる淀川長治賞を1997年に受賞した北野武監督も「評論じたいが芸になっていたね!」という。実家は神戸の置屋で、「母が活動写真を見ている最中に産気」づいて生まれ、1歳から毎週両親に連れられて映画を見始め、7歳で初めて映画を一人で見る。神戸の高校時代から映画雑誌に投稿し業界では知られた存在で、高熱で大学受験できなかったことも知らない親には東京の大学に通っているふりをして仕送りを受けつつ、毎日5映画館を見て回り、愛読していた映画雑誌「映画世界」編集部で働く。編集部の手伝い募集を見て募集したら、毎月7種のペンネームで投稿していたせいか、名前も名乗らないのに、社主に「あーた、ヨドガワさんでしょう」とスバリといわれたという。親にばれて神戸に連れ戻されるが、結局、映画の世界に戻り、39歳から「映画の友」の編集長を20年近く務め、57歳から89歳で亡くなる前日まで日曜洋画劇場の解説者。1984年に勲四等瑞宝章受章。1997年に日本経済新聞「私の履歴書」に寄稿。1998年に逝去。「お別れの会」には、ブラッド・ピット、アラン・ドロン、アーノルド・シュワルツェネッガー、スチーブン・セガールら世界中の監督、スターらから電報が寄せられたという。曰く、「まともに人の生活をやれそうもないという不安があった。第一、映画以外何一つダメだった。…その反対に、映画となると目の色が変わり、のどを鳴らしてじゃれる猫そっくりになった。」「これではまともに会社づとめなど出来ぬ。そういうことも頭から覚悟した。だから映画の仕事のほかは絶対やらぬと決めた。それで映画の仕事ではたらいて、その映画の会社から爪のアカほどの給料をもらえればそれでいいと覚悟した。中学生のことから、そう決めていた。」という。映画は彼の人生を変えてしまったが、映画にはきっとそんな魅力があるのだろう。淀川長治が亡くなってから20年余り、2019年は映画の当たり年。日本映画製作者連盟によると、2016年にアニメ「君の名は」で大ヒットを飛ばした新海誠監督のアニメ、「天気の子」(家出少年と祈るだけで天気にできる能力を持つ少女が出合い、「運命に翻弄される少年と少女が自らの生き方を『選択』するストーリー。」)や2014年大ヒットのディズニーのアニメの続編「アナと雪の女王2」などのヒットで、2019年の映画興行収入は前年比17%増の2,611億8,000万円と2000年以降で過去最高額を更新したという。興行収入10億円以上でヒットとされる業界で、2019年には興行収入10億円以上の作品は65本(邦画40本、洋画25本)。前年はロックバンド「クイーン」を描き、リピーター続出だった伝記映画、ボヘミアン・ラブソディ131.0億円、前々年はディズニーアニメの実写版「美女と野獣」124.0億円と1本だけだった100億円以上のヒットが、「天気の子」140.6億円を筆頭に、2位以下はいずれもディズニーの「アナと雪の女王2」127.9億円、アニメの実写版「アラジン」121.6億円、おもちゃが主役の人気アニメシリーズ「トイ・ストーリー4」100.9億円と4本。2019年の興行収入トップ10を見ると、洋画6本中サヨナラ、サヨナラ、サヨナラ―最近の日本映画とその海外展開(上)元国際交流基金 吾郷 俊樹30 ファイナンス 2020 Oct.SPOT

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