ファイナンス 2020年10月号 No.659
20/84

閑散とした国際通り(8月25日夕撮影)はじめに新型コロナウィルスの感染拡大は、わが国においても、経済のほか、さまざまな影響を与えている*1。インバウンドをはじめとして観光の拡大に沸いていた沖縄においても、その影響は甚大だ*2。本稿では、まず、去る9月25日に公表した、特別調査(第3回「新型コロナウィルス感染症」拡大の県内景況に及ぼす影響について)と、県内企業景況調査結果[2020年7~9期実績、2020年10~12月期見通*1) 憲法学の佐藤幸治・京都大学名誉教授は、近著「日本国憲法論(第2版)」(成文堂 2020年9月)の「はしがき」において、「・・(前略)・・今われわれ(人類)は、新型コロナパンデミックに直面して常ならぬ生活を強いられる中で、あの第一次世界大戦中の1918年にもアメリカに発するいわゆるスペイン風邪・パンデミックがあったこと、そしてそれが孕む根底的な社会変動への契機とドイツの敗戦にかかわる厄介な戦後処理問題などが複雑に絡み合う混然たる状況の中で、ついには『力信仰』に基づくナチスに象徴される全体主義体制が台頭したこと、を否応なく想起させられている。今回のパンデミックに適切に対処していくには様々な困難が予想されるが、常に心すべきは『力信仰』に陥ることのないようにということである。換言すれば、『基本的人権と人間の尊厳及び価値』を基礎に据え、『対話』を通じて平和的共生・共存をねばり強く求め続ける中にしか道はない。・・(後略)・・」とする。佐藤名誉教授は「力」信仰は、かならずといってよいほど「言葉」が本来の意味・内実を喪失していくことに通じ、対話・討論を無意味として忌避すると洞察する。沖縄振興においても、この碩学のことばをこの事態の中でよく噛みしめたい。参照:「普天間飛行場、どう取り戻す?~対立か協調かの選択肢」(橋本宏(元沖縄担当大使)著 時事通信出版局 2020年5月)。橋本氏は、対話の起点として、「対論『沖縄問題』とは何か 仲里効 高良倉吉」(読売新聞西部本社文化部編  弦書房 2007年)を挙げている。*2) 文芸評論家の斉藤美奈子氏は、PR誌「ちくま」2015年7月号から2020年7月号までの「世の中ラボ」を書籍化した「忖度しません」(筑摩書房 2020年9月)の中で、「観光でも基地でもない、沖縄の実像」(2017年3月掲載分)と題して、仲村清司著「消えゆく沖縄―移住生活20年の光と影」(光文社新書 2016年)、高良倉吉編著「沖縄問題―リアリズムの視点から」(中公新書 2017年)、大久保潤・篠原章著「沖縄の不都合な真実」(新潮新書 2015年)を紹介している。この選書眼の鋭さにはいつもながら脱帽する。そして、「沖縄についてあれこれいう人は以前に比べて随分増えた。だが、私たちは自分の思いを沖縄に勝手に仮託していないだろうか。少し反省いたしました。」という。これもまた、極めて的を射た指摘だと感服する。この関連では、『沖縄で新聞記者になる 本土出身記者たちが語る沖縄とジャーナリズム』(畑仲哲雄著 ボーダー新書 2020年2月)をお勧めしたい。しかし、本書発刊による追記である、「しかし、『基地に頼らない振興策』を掲げ観光政策などに力をいれた結果、翁長雄志県政(14年12月~18年8月)の下で沖縄は経済成長をとげた。一人当たりの県民所得は234万9千円に増加(17年)、完全失業率は2.7%まで低下(19年)。本土との格差はまだ大きいが、翁長前知事・玉城デニー知事の支持率の高さは経済政策が支持されたためである。」とまでくると、高評価されたご本人たちもおそらく赤面するのではないかと思う。ビザの緩和、円安など、沖縄のみならず日本全体に長期の景気回復をもたらしたアベノミクスの恩恵を沖縄が全面的に受けたという点や、2021年度まで毎年3,000億円台を確保する方針が示されている沖縄振興予算の成果、特に、自由度の高い高率補助制度である一括交付金制度を活用できたことなど、翁長県政以前の仲井真県政時代に沖縄県が獲得した優遇措置が実を結んだという点も、冷静に評価すべきだろう。「自分の思いを沖縄に勝手に仮託」という本文のすぐれた指摘の真価が問われる箇所のように思う。し]を紹介する。そののちに、9月23日に那覇で開催された第16回沖縄振興審議会総合部会専門委員会での、当沖縄振興開発金融公庫(以下「おきなわ公庫」という。)川上好久理事長の「新型コロナウイルスにおける沖縄経済の影響について」と題する意見陳述を紹介する。最後に、筆者がここ4年ほどかかわってきた沖縄振興についての中長期的な課題(企業の生産性、子どもの貧困問題など)について私見を述べる。本号と11月号の2回にわたるものとなる。1おきなわ公庫調査部による地域経済分析おきなわ公庫においては、長年調査機能の強化が課題となっている。2019年4月から、新たに調査部の設置が認められた。2020年度の業務運営方針においては、「調査機能の拡充及び大学、シンクタンク、自治体や地域のステークホルダーとの連携強化により、地域経済分析の充実に努める」こととされている。新型コロナウイルス感染下の 沖縄経済の状況及び 今後の中長期的な課題について(上)沖縄振興開発金融公庫副理事長 渡部 晶16 ファイナンス 2020 Oct.SPOT

元のページ  ../index.html#20

このブックを見る