ファイナンス 2020年9月号 No.658
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糸島島」が取り上げられることが次第に増えてきました。しかし、データをみると、収益を生み出す事業の60%以上が産直施設や飲食業であり、観光客が向かう先以外は、ほとんどの業種が厳しい状況となっていました。食材という強みを持つ糸島に吹いてきた追い風も地域経済の活性化につながらなければ、地域にとって意味はありません。そこで、更にデータを分析・検討するとともに地域企業へのヒアリングを実施した結果、地域が抱える課題を解決するためには、小規模事業者の生産性向上が重要で、開発から販売までの流れを自分たちでつくり、地域内で経済を循環させることが必要であるとの結論に至りました。こうして新しい糸島ブランド創出を目指す「マーケティングモデル推進事業」が開始されました。まず取り組んだのが、地元で安定して採れる「ふともずく」。栄養価が高いにも関わらず、収量の少なさと販路未開拓のため、売り上げの増加に結び付いていないという課題がありました。そこで、産学官で連携して地元の食材、人材、技術等を結び付け、地域事業者のマーケティング戦略を支援しました。その結果、1年半で売上高を約6倍にまで増やすことができました。商品化された「ふともずく」4糸島ファームtoテーブル糸島産食材が飲食店で料理になることで、消費者が目にし、食べる(体験する)機会が増えます。ただ生産量が多い、種類が多いと言うだけではなかなかブランドの知名度向上に結び付きません。データによる要因分析では、食材を求めて糸島市を訪れる観光客の90%以上は県内からで、その多くが福岡市からの日帰り観光客(全体の約3割)であることがわかりました。また、県外からの流入をみると、東京からの観光客も一定数みられました。これは、既に県内では糸島産食材にある程度知名度がある一方で、県外に対しては知名度を向上させる余地があることを示唆するものでした。そこで、東京の飲食店と連携し、食材の味や品質に詳しく、多くの来客に対して発信力を持つシェフたちを当地に招き、直接生産者と会って、食材を味わってもらうことにしました。消費者はその体験を聞き、糸島産食材を体験することにより、糸島に興味を持ち、知名度も向上することが期待されます。このように直接・間接にシェフが生産者と、また、生産者が消費者と出会える、つまりファームとテーブルがつながる取組を進め、糸島産食材を体験してもらう場を増やしています。イベントで卵をつまんで見せる養鶏農家こうしてデータ分析をすることで政策の効果、説得力、自信などが増し、地域内外の多様な関係者を巻き込んで協働しながら取組を推進できるようになりました。これらのデータのほとんどは、国から公開されているRESASで分析しており、これからも地域経済の活性化に向けた地方創生戦略の立案にあたっては、データを積極的に活用していきたいと思います。糸島ブランドの更なる発展に期待地方創生コンシェルジュ福岡財務支局総務課企画調整官 野田英一地理的な好条件に安穏とすることなく、地方創生施策の検討・分析に積極的にRESASデータを活用する糸島市。地域経済の底上げには地元の多くの方が働ける仕事(産業)を育成することが必要だとする経営学的な視点に基づいて、地元の関係者を巻き込みながら進めていったプロジェクトの先進性は、「地方創生☆政策アイデアコンテスト」など多くの受賞歴が物語っているところです。皆さまも是非、糸島に足を運び、糸島産の食材を体感していただきたいと思います。78 ファイナンス 2020 Sep.連載各地の話題

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