ファイナンス 2020年9月号 No.658
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(2020)は金融危機以降の規制改革に注目した議論を行っています。具体的には金融危機に伴う規制改革により日本国債そのものは安全利子率として機能していたとしても、金融機関がそれを保有することに伴いコストが発生する点に着目しています。Jermann(2020)は国債の保有コストが裁定に一定の限定をもたらすことにより、スワップ・スプレッドが負になるモデルを提示しています。Jermann(2020)の中でも市場参加者から規制要因がスワップ・スプレッドを生む要因として指摘されていることを紹介していますが、円債の市場参加者でも規制を理由に負のスワップ・スプレッドを説明することは少なくない印象です。もう一つはKlingler and Sundaresan(2019)です。彼らは年金がリスク管理の観点でスワップを活用する点に着目しており、その需要により30年債のスワップ・スプレッドがマイナスになる可能性について分析しています。年金はその性質上、負債サイドに長い期間の契約を結ぶが故、負債側のデュレーションが長くなりますが、資産サイドのデュレーションを合わせるため、年限の長い金利スワップをレシーブすることでALM(Asset Liability Management)に取り組んでいます。彼らのモデルでは、裁定を行う投資家(アービトラージャー)がバランス・シートの拡大について一定の制約があることから国債と金利スワップの裁定が限定的に働き、スワップ・スプレッドが負になることを指摘しています。このように投資家がバランス・シートの拡大に制約を有することから、裁定取引が限定的になり、需給要因が金利の期間構造に影響を与える分析は近年活発になされています。投資家の需要を重視する金利の期間構造の理論を市場分断仮説といいますが、市場分断仮説については服部(2019)やHattori(2020)をご参照ください。ちなみに、Hattori and Yoshida(2020)は日銀の公開市場操作が国債の需要に直接影響を与えるものの、スワップには直接影響を与えない点に着目し、日銀が実施した指値オペが10年国債の利回りを日銀がターゲットとした方向に誘導できており、日銀がイールドカーブをコントロールできていることを議論しています。本稿では3か月円LIBORをインデックスとする金利スワップについて紹介しましたが、必ずしも3か月円LIBORをインデックスとするスワップ・レートのデータが取得できるとは限りません。そこで6か月円LIBORをインデックスとする金利スワップに加え、3か月円LIBORと6か月円LIBORを交換するベーシス・スワップを用いることで、3か月円LIBORをインデックスとする金利スワップのプライシングを考えます。服部(2020b)で説明したとおり、ベーシス・スワップとは変動金利を交換するスワップですが、「3か月円LIBOR+α」と「6か月円LIBOR」を交換するスワップが取引されています。そのため、図6のように、6か月円LIBORをインデックスとする金利スワップをレシーブした後、ベーシス・スワップをペイすることで、3か月円LIBORをインデックスとする金利スワップを複製することができます。具体的には、3か月円LIBORをインデックスとする10年のスワップ・レートを計算する場合、6か月円LIBORをインデックスとする10年のスワップ・レートに、(6か月円LIBORと3か月円LIBORを交換する)10年のベーシス・スワップのαを引くことでプライシングができます。BOX 3 3か月円LIBORをインデックスとする金利スワップのプライシング72 ファイナンス 2020 Sep.連載日本経済を 考える

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