ファイナンス 2020年9月号 No.658
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4.スワップ・スプレッド4.1  スワップ・スプレッドに影響を与える要因金融機関の信用リスク最後に、スワップ・スプレッドの変動要因について考えていきます。金利スワップでは固定金利と変動金利の交換を行いますが、投資家は互いにその交換がフェアであると考えなければむろんその交換は行いません。その意味で、金利スワップとは固定金利と変動金利の等価交換と解釈できます。例えば、金利スワップを受けた場合、固定金利の現在価値を受け取り、変動金利の現在価値を払いますが、これらは等価であるため、金利スワップを結んだ時点における現在価値(Present Value)は理論的にはゼロになります。実際、スワップを締結した時点では資金の受払はありませんし、ファイナンス理論でもこのような想定をします。タックマン(2012)でも、「スワップ取引の締結時にはなんら支払いは発生しないので、スワップの価値は双方にとってネットでゼロ、つまりVFixed-VFloat=0でなければ公正といえない」*13と指摘しています(ここでVFixed(VFloat)はスワップにおける固定(変動)のキャッシュ・フローの価値を指しています)。このようにして考えると、スワップ・レートの水準を定める大きな要因は、スワップにおけるインデックスとする変動金利がどのようなものなのか、ということに依存することが分かります。例えば、6か月円*13) タックマン(2012)のp.391より抜粋しています。*14) 例えば、Dufe and Singleton(1997)は一定の条件下で、スワップ・レートは、スワップの交換期間中にLIBOR金利相当の信用力を有する仮想的な発行体に適用される債券の利回りに相当することを示しています。LIBORをインデックスとする金利スワップの場合、6か月円LIBORは銀行が6か月間調達するときのオファー・レートですから、その定義上、銀行の信用リスクが含まれていると考えられます。スワップ・レートとは、銀行の信用リスクを含んだ変動金利と等価な固定レートなので、銀行の信用リスク分、スワップ・レートは高い値を取ると解釈できます*14。一方、3か月円LIBORの場合、3か月間、金融機関に資金提供する場合のリスクですから、6か月円LIBORより信用リスクは低いと解釈できます。OISの場合、インデックスとする変動金利はTONAですから、銀行の信用リスクは1営業日のみです。そのため、3か月円LIBORをインデックスとするスワップ・レートやOISのスワップ・レートは、6か月円LIBORを用いたスワップ・レートより信用リスクが低いため、低い値をとるはずです。実際、図4をみると、このことが確認できます。スワップ・スプレッドは、「スワップ・レート-国債の金利」ですから、インデックスとしている変動金利がどの程度金融機関の信用リスクを有しているかにスワップ・スプレッドが依存することが分かります(3か月円LIBORをインデックスとするスワップのプライシングについてはBOX 3を参照してください)。カウンター・パーティ・リスク金融機関の信用リスクという意味では、金利スワップは店頭市場(Over The Counter, OTC)における図4 2年スワップ・レートの推移(6か月円LIBOR、3か月円LIBOR、TONA)20/01(年/月)19/0118/0117/0116/0115/0114/0113/0112/0111/0110/01-0.40.60.50.40.30.20.10-0.2-0.1-0.3(%)6mLIBOR3mLIBORTONA(OIS)注:6mLIBOR、3mLIBOR、TONAはそれぞれ6か月円LIBOR、3か月円LIBOR、TONAをインデックスとするスワップ・レートを示しています。データはBloombergから取得しています。70 ファイナンス 2020 Sep.連載日本経済を 考える

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