ファイナンス 2020年9月号 No.658
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アセット・スワップは金利リスクを抑えることができるため、銀行などがキャッシュつぶしのような形で投資することも少なくありません。アセット・スワップの買いは、固定金利を支払う国債を変動債に変換して投資していると解釈することもできます。例えば、10年国債を購入すると10年間金利が固定されますが、6か月円LIBORをインデックスとする10年の金利スワップを払うことで、(図2の右図のように)「6mL+α」を10年間受け取る債券への投資へ変換されるわけですから、これはいわば6か月ごとにその時々のLIBORに金利が修正される変動債を購入していることと同じです。この場合、金利が固定される期間は0.5年ですから、アセット・スワップのデュレーションは概ね0.5に近いイメージになります。気を付けるべき点はデュレーションとはあくまでイールドカーブがすべて平行に動いた時(イールドカーブがパラレルにシフトしている場合)のリスク量であることです。すなわち、国債であればデュレーションは、例えば1年から40年まですべて上方へ微少に変化した場合のリスク量を想定しています。もっとも、実際にはすべての年限の金利が共通して動くわけでなく、特定の金利のみが変化する可能性もあります。例えば、10年のアセット・スワップを買った場合、これは「10年国債ロング」と「10年金利スワップを払う」ことを組み合わせています。デュレーションは0.5であるため、カーブが1年から10年までパラレルに1bps上昇した場合は(100円に対して)0.5銭だけ損失が発生します。その一方、仮にスワップカーブは変わらず10年国債の金利のみが1bps上昇した場合、もちろん10年債を単体でロングしていた時の損失が計上されるということです。この場合、10年国債のデュレーションがおおよそ10であることを考えると、金利1bpsの変化に対して(100円に対して)約10銭価格が低下しますので、先ほどの約20倍の損失であることがわかります。別の表現を使えば、スワップ・スプレッド(α)が変化した場合のリスク量は、あくまで何年のアセット・スワップを買っているか(売っているか)という点に帰着するということです(デュレーションなど金利リスクについては次回のレポートで記載することを予定しています)。2020年3月のように20年や30年のスワップ・スプレッドが大きく動く局面であると、そのポジションを持っていた投資家が大きく損をする可能性があります。2020年3月の相場においてはアセット・スワップのポジションを解消する(アンワインドする)投資家の動きが円債市場に大きな動きをもたらしたといわれています。2008年の金融危機時も、エンデバー・キャピタルと呼ばれるヘッジファンドがアセット・スワップについての大きなポジションをもっており、そのポジションの解消に伴い相場が大きく動いたといわれています(いわゆるエンデバー・ショックです)。そのため、金融危機時にはしばしばアセット・スワップが市場動向のキーとなる局面が少なくなく、その意味でも、円債市場に係る政策担当者はその基本的な設計を理解しておく必要があります。BOX 2 ボックス・トレード本文ではスワップ・スプレッドの割安・割高という観点でアセット・スワップの投資がなされることを議論しましたが、スワップ・スプレッドのスプレッドに着目した取引もなされます。これはいわばスプレッドのスプレッドをとればより平均回帰的な動きをするのではないかという発想ですが、スワップ・スプレッドの相対価格に着目した取引をボックス・トレードといい、ヘッジファンドなどが好んで行う運用手法として有名です。例えば、ヘッジファンドは10年のアセット・スワップのロングと5年のアセット・スワップのショートといった形でボックス・トレードを行います。この場合、「10年のスワップ・スプレッド-5年のスワップ・スプレッド」という形でスプレッドのスプレッドを計算します。 ファイナンス 2020 Sep.69シリーズ 日本経済を考える 104連載日本経済を 考える

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