ファイナンス 2020年9月号 No.658
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のもあります。例えば3か月円LIBORやTIBOR、無担保コール翌日物金利(Tokyo OverNight Average rate, TONA)などをインデックスとする金利スワップも取引されていますが、国債を購入すると同時に、これらのスワップを払うこともできます(TONAを*7) パー・パー時の受渡金額は利含み単価になります。*8) 例えば、杉本・福島・若林(2016)におけるアセット・スワップの説明では「セカンダリー・マーケット(社債の転売市場)で購入することが多いため、その価格差をアップフロントで受払して、LIBORスプレッド部分か固定金利で案分調整することになる」(p.124)との記載がなされていますが、これはパー・パーを想定した説明になっています。*9) 債券(固定利付債)の場合、クーポン(キャッシュ・フロー)が固定されていますから、価格が上昇すると、その債券のリターン(金利)は低下します。(他の条件を一定にすれば)購入する価格が上がればリターンが低下することは、株式や不動産などすべての資産について共通していえることです。インデックスとするスワップをオーバーナイト・インデックス・スワップ(OIS)といいます)。大切な点は、このように異なる金利スワップを用いるとスワップ・レートが異なってくるため、αの値も異なってくる点です(この点についても後述します)。BOX 1 アセット・スワップにおけるαの計算方法本稿ではクーポンと国債利回りが一致するケース(つまり、国債価格がパーであるケース)を想定した説明をしましたが、通常、市場で取引されている国債はパーであるとは限りません。現在の実務では、例えば、10年の国債の利回りと10年のスワップ・レートという形で年限を合わせてスワップ・スプレッドやαを計算するケースが多く、これは満期を単純に合わせることで計算していることからマッチド・マチュリティと呼ばれます。もっとも、国債がパーになるようにアップ・フロントで受払して*7、αを計算する方法もあり、これはパー・パー(Par Par)と呼ばれます*8。日本ではマッチド・マチュリティでαを計算することが通常ですが、マッチド・マチュリティとパー・パーで算出されるαの値が異なる点に注意が必要です(実務家の資料では両方の値が提示されることもあります)。3. 日本国債と金利スワップの裁定取引について3.1 金利スワップとの裁定取引とはここから具体的に投資家がアセット・スワップを使ってどのように日本国債と裁定取引をしているかを考えていきます。例えば、明日、日本国債(10年債)の入札があり、読者が入札で10年国債へ投資するかを検討していたとしましょう(日本国債の入札については石田・服部(2020)を参照してください)。この際、読者は現在の国債の金利水準そのものは投資妙味がないと考えているとします。面白い点は国債の金利水準そのものは魅力的ではなくても、対金利スワップという観点であれば投資の妙味があることがあり得る点です。そもそも裁定取引とは、同質性が高い2つの財があり、1つの財にもう一つの財と異なる価格が付されていた場合、高い財を売って安い財を買うことで価格差を収益化する行為です。債券市場において裁定取引を行う場合、同質性が高い債券について、高い金利の債券(価格の低い債券)を買うと同時に、低い金利の債券(価格の高い債券)を売ることで収益化します(債券価格と⾦利は逆の動きをする点に注意してください*9)。ここで国債と金利スワップの同質性が高いと想定すれば、その両者の金利水準が大きく異なれば、投資家にとって裁定を行う機会になります。例えば、10年の金利スワップ・レートに対して、10年の国債金利が過度に高い状況が続いていたとします。両者の同質性が強いのであれば、やがて高すぎる状況が解消される(スワップ・レートに対して国債金利が低下する)ことが予測されます。この場合、先ほど言及したとおり、相対的に金利が高い(価格が低い)財(10年国債)を買って、相対的に金利が低い(価格が高い)財(スワップ)を売ればよいので、国債を購入すると同時に、スワップを払うポジション(アセット・スワップのロングのポジション)を作れば、金利の修 ファイナンス 2020 Sep.67シリーズ 日本経済を考える 104連載日本経済を 考える

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