ファイナンス 2020年9月号 No.658
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(例えば住宅ローン担保証券など)と金利スワップの組み合わせもアセット・スワップと呼ばれます。日本国債を用いたアセット・スワップをJGBアセット・スワップということも少なくありません。本稿では最も流動性が高い日本国債とのアセット・スワップを前提に考えます。2.2 アセット・スワップのキャッシュ・フローもう少し具体的にアセット・スワップについて考えていきます。例えば、ある投資家が10年国債を購入すると同時に、6か月円LIBORをインデックスとする金利スワップを払うとしましょう。図1にそのイメージが付されていますが、投資家は(1)当初10年国債を購入するための資金(購入価格)を支払います。それに伴い、期中、10年金利(T)を受け取り、満期に100円受け取ります*3。これと同時に、(2)10年金利スワップを払うため、10年間、金融機関などのスワップ・カウンター・パーティに対して期中スワップ・レート(L)を支払う一方、6か月円LIBORを受け取ります*4。まず、アセット・スワップを購入するに際して、日本国債をロングするわけですから、この投資家は日本国債の金利(T)を毎年受け取ります。国債ロングのキャッシュ・フロー(1):T一方、同年限のスワップを払うわけですから、毎年*3) ここではクーポンと利回りが一致するケース(国債価格がパーであるケース)を想定して説明していますが、実際には投資する国債がパーであるとは限りません。詳細はBOX 1を参照してください。*4) ここでは単に国債とスワップの満期をマッチさせるマッチド・マチュリティを前提にしています。パー・パー(Par Par)の場合、フロントで資金のやり取りがあります。詳細はBOX 1を参照してください。*5) 厳密にいえば、国債を調達するときのコスト(レポ・コスト)を考える必要がありますが、ここでは実務的に頻繁に用いられるαを導出するため、調達コストは捨象しています。スワップ・レート(L)を支払い、変動金利に相当する6か月円LIBOR(6mL)を受け取ることになります。そのため、スワップを払うことの年間のキャッシュ・フローは下記になります。スワップを払うことのキャッシュ・フロー(2): -L+6mLしたがって、T年の国債のロングとスワップを払うことから得られる年間のキャッシュ・フローは(1)+(2)で下記のようになります*5。T - L + 6mLαこの時、「T-L」の部分をしばしばαと記載しますが、実務的に非常に重要な変数です。例えば、投資家が証券会社などの業者にアセット・スワップのプライスを聞いた場合、このαが価格として提示されます。日本国債の売買を行う際、通常、利回りをベースに価格交渉をしますが、αはいわば、国債における利回りのような役割を果たしています。また、αは国債金利に対してどの程度スプレッドが付されているかをみているため、アセット・スワップの割安・割高などの判断でも頻繁に用いられます。通常、金融資産のスプレッドを定義する場合、国債金利に対するスプレッドを見ることから、「L-T」という形で定義することもあります。これはスワップ・レー図1 アセット・スワップのイメージ投資家スワップ・カウンター・パーティ購入価格スワップ・レート(L)国債市場国債金利(T)+償還(100円、満期)6か月円LIBOR(1)10年国債の購入(2)10年金利スワップを払う ファイナンス 2020 Sep.65シリーズ 日本経済を考える 104連載日本経済を 考える

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