ファイナンス 2020年9月号 No.658
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過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.htmlアセット・スワップ (スワップ・スプレッド)入門 ―日本国債と金利スワップの裁定について―財務総合政策研究所服部 孝洋*1シリーズ日本経済を考える1041.はじめに*1服部(2020b)では金利スワップの基本について説明をしましたが、本稿では日本国債との裁定の関係で金利スワップについて考えていきます。服部(2020b)で強調しましたが、国債への投資は資金調達まで含めれば、固定金利と変動金利の交換と解釈できます。金利スワップと国債が類似的な取引であれば、その両者に裁定取引が働きます。実際、円債市場では、このような取引が非常に活発になされています。特に重要な取引は、アセット・スワップと呼ばれる取引です。アセット・スワップとは、ある年限の国債をロング(ショート)*2すると同時に、同年限のスワップを払う(受ける)というパッケージ商品です。円債市場ではこのパッケージ商品が活発に売買されているわけですが、アセット・スワップを売買することは国債とスワップの裁定取引そのものを意味するため、アセット・スワップは国債とスワップの連動性を強める商品といえます。実際に、国債の入札時などではアセット・スワップの観点で応札すべきかどうかの議論がなされます。本稿ではまずはアセット・スワップの取引の概要を説明した後、国債とスワップの裁定取引について具体的に考えていきます。最後に国債の金利とスワップ・レートの乖離(スワップ・スプレッド)の変動要因について説明します。なお、本稿では服部(2020b)で*1) 本稿の意見に係る部分は筆者の個人的見解であり、筆者の所属する組織の見解を表すものではありません。本稿の記述における誤りは全て筆者によるものです。また本稿は、本稿で紹介する論文の正確性について何ら保証するものではありません。本稿につき、コメントをくださった多くの方々に感謝申し上げます。*2) ロングとは国債の購入することを指す一方、ショートとは国債の売却(空売り)することを指します。説明した金利スワップの知識を前提とするため、金利スワップについて必ずしもなじみがない読者は同論文をまずはご参照いただければ幸いです。また、日本国債と先物の裁定取引も非常に重要であるため、同取引に焦点をあてた服部(2020a)も参照していただければ、と思います。2.アセット・スワップの概要2.1 アセット・スワップとは前述のとおり、アセット・スワップとは債券を購入(売却)すると同時に、同年限のスワップを払う(受ける)取引です。債券の購入と同年限のスワップを払う取引を「アセット・スワップを買う」といい、逆に、債券を売り、同年限のスワップを受ける取引を「アセット・スワップを売る」といいます。証券会社にはアセット・スワップを担当するトレーダーが存在しており、アセット・スワップのポジションを管理するとともにプライスを提示することでアセット・スワップ市場を形成しています。読者がまず最初に意識すべきことは、アセット・スワップとは、債券と金利スワップの「パッケージ商品」であるということです。国債と金利スワップのパッケージ商品が最も多く取引されていることから、アセット・スワップといった場合、国債を用いたものを指すことがほとんどです。もっとも、その他の債券64 ファイナンス 2020 Sep.連載日本経済を 考える

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