ファイナンス 2020年9月号 No.658
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(3)フランスフランスでは、4月9日、エールフランス-KLMが、グループ全体での3月の旅客数は前年同月比で▲56.9%となったと発表するなど旅客輸送量の減少が顕著に表れはじめた。6月30日には航空機製造の大手であるエアバスが、世界全体で従業員の約11%に当たる1万5千人の人員削減を行うと発表。また7月3日、エールフランス-KLMでは今後3年間で約7千6百人の人員削減を行うと発表した。エールフランス-KLMの2020年第1四半期決算では、18億ユーロの赤字(前年同月は3億ユーロの赤字)となり、需要減少による深刻な打撃を受けていたところ、4月24日に仏経済・財務相は合計70億ユーロの支援を行うことを発表。内容は複数の銀行による政府保証付きの融資40億ユーロと、政府の直接融資30億ユーロである。エールフランス-KLMは5月4日に欧州委員会の承認を受け、同月6日には正式に署名したと発表し、支援を受ける事が決まった。(4)英国英国では、国内線で最大シェアを持っていたフライビーが以前から財政難であったところ、新型コロナウイルスを原因とした旅客輸送量の減少により3月5日に経営破綻した。また、4月28日にIAG(インターナショナル・エアラインズ・グループ)は傘下であるBA(ブリティッシュ・エアウェイズ)において最大1万2千人の人員削減を検討していると発表した。IAGの2020年第1四半期の純損益は14.5億ポンドの赤字となり、前年同期の0.6億ポンドの黒字を下回った。BAに対する政府支援としては、3月17日に導入が公表された、英中銀によるコマーシャルペーパーの買入れファシリティ(CCFF)を利用した3億ポンドの支援を行っているものの、先述のルフトハンザやエールフランス-KLMに対する支援に比べると、規模の小さいものとなっている。3.足元における見通し以上のように主要航空会社へ様々な支援が行われる中、足元の入国制限状況を見ると、米国では、本稿を執筆している7月31日時点で中国や欧州等からの入国制限が続いている一方、欧州では2020年7月1日からEUおよびシェンゲン協定域外からの渡航制限の段階的な解除を加盟国に求め、加盟各国で段階的な入国制限の撤廃が始まり、航空需要が回復しつつあると報道されている。しかしながら、IATAは7月28日に新たな今後の見通しを発表し、航空需要が新型コロナウイルスの感染拡大以前の水準に戻るのは2024年頃になるとしており、急激な回復は望めないとみられている。4. コロナを契機とした新たな成長へ向けた取組みEUでは、2050年までにEU域内の温室効果ガスの排出が実質ゼロとする気候中立の達成を目指し、カーボン・プライシング、欧州の自然環境保護や、環境面での持続可能な投資計画などを軸とした、「欧州グリーンディール」と呼ばれる新たな成長戦略に取り組んでいる。仏政府は、これに沿った取組みとして、エールフランス-KLMに対する支援においていくつかの条件を示しており、温室効果ガス削減を目的とした、国内市場で鉄道と競合する近距離フライトの削減、環境負荷の低い機体への移行、2025年までに燃料の2%を持続可能エネルギーへ移行することなどを求めた。こういった危機によるダメージからの復興と脱炭素社会等の環境への配慮の両立を目指す動きは他でも見られ、オランダ政府によるKLMオランダ航空に対する支援に際しては、CO2排出量の削減等を求めてお【図表5】ルフトハンザ、エールフランス-KLM、IAGの純損益の推移-25-20-15-10-5051015ⅠⅣⅢⅡⅠⅣⅢⅡⅠ202020192018(出所)ブルームバーグ(億ユーロ、IAGは億ポンド)ルフトハンザエールフランス-KLMIAG60 ファイナンス 2020 Sep.連載海外経済の 潮流

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