ファイナンス 2020年9月号 No.658
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事業者から見たキャッシュレス決済・一方で、ポイント還元事業を機にキャッシュレスを導入した事業者を対象にしたアンケート調査によると、キャッシュレス導入による売上増加や業務効率化の効果については、事業者の間で相当のばらつきがみられる(図表8)。・また、キャッシュレスを導入していない理由を聞いたアンケート調査によると、手数料の高さや、導入によるメリットを感じられないことが主な理由として挙げられている(図表9)。・アンケート結果によれば、ポイント還元事業の終了後、新規導入事業者のうちの一定数は、還元事業終了後に現金決済に戻すと回答しており、事業者にとって、キャッシュレス決済のメリットが幅広く認識されている状況には至っていないと考えられる(図表10)。図表8 ポイント還元事業の売上・効率化への効果100%80%60%40%20%0%業務効率化効果(n=3,214)非常に効果があった効果があったあまり効果がなかった効果がなかった売上効果21.7%38.1%34.1%6.0%20.2%34.0%36.4%9.4%図表9 キャッシュレスを導入しない理由(2017年)50%40%30%20%10%0%14.3%14.3%14.3%25.7%29.3%32.1%35.7%42.1%入金までに時間を要する店舗や施設の伝統や雰囲気にそぐわない現金のほうが信用できる導入費用が高いクレジットカード決済を要望する声が少ない現場スタッフによる対応が困難導入によるメリットを感じられない手数料が高い(n=140複数選択可)図表10 ポイント還元事業前後のキャッシュレス対応比率と終了後に止める割合100%80%60%40%20%0%キャッシュレス支払い手段の提供を続ける 32.7%35.7%26.7%キャッシュレス支払い手段の提供を続けない 3.0%64.3%73.3%2020年5月(n=3,214)2019年11月(n=3,546)キャッシュレス支払可能キャッシュレス支払不可能ポイント還元終了後キャッシュレス対応を止める理由50%40%30%20%10%0%(n=46)入金されるまでに一定日数以上かかるため、資金繰りに困ることがあったからキャッシュレスの支払い手段を利用する顧客が少ないから当初想定よりも決済手数料などの費用が割高だったから決済事業者から得られる顧客情報等が少なかったから2% 24%39%46%日本におけるキャッシュレス社会の今後・キャッシュレス決済推進による生産性向上という政府の狙いは、事業者・消費者へのアンケート結果からみると、その効果が広く実感されている状況には至っていない。キャッシュレスがさらに普及するためには、事業者・消費者が、キャッシュレスのメリットや生産性向上の効果を実感できることが重要と考えられる(図表11)。・事業者にとっては、キャッシュレスを単なる決済の手段の効率化としてだけ捉えるのではなく、自社の顧客データ分析に活用し、より進んだマーケティング等を通じた売上・利益向上に生かしていくことが望ましい(図表12)。・決済事業者においては、加盟店と連携して、消費者が利便性向上を実感できるようなメリットを効果的に提供することによって、キャッシュレス決済を積極的に利用する消費者を増やしていく取組みが求められるだろう(図表13)。図表11 ポイント還元事業に対する政府の狙いと事業者・消費者の結果狙い結果政府事業者消費者キャッシュレス決済推進業務効率化への効果は限定的利便性向上生産性向上インバウンド消費拡大増税対策ポイント還元にのみメリット感消費落込み防止図表12 事業者のデータ活用例活用している事業者活用内容長谷川ダイヤモンドキッチン「Line Pay」を導入し、代金の支払いと同時に店の公式アカウントへの登録を促す機能を活用。新商品情報やパン作り動画を定期的に配信することで消費者の認知度を集め、販売数量を増やした。ご縁横丁「Airペイ」を導入し、リアルタイムのデータ蓄積を活用。セット販売や施設内の店頭販促の効果を検証・改善した結果、売上高を伸ばした。ブックオフコーポレーション古本などの買い取り代金を店がキャッシュレスで支払うことで、お客が店外に出た後でも送金できるため、店内で待ってもらう必要がなくなった。ゑびや過去の売上データ、宿泊予測等のデータとインターネット上の飲食店評価のデータを用いて、来客者数を予測する計算手法を開発し、効率的な人員配置や食品廃棄削減を実現した。図表13 決済事業者・加盟店が連携したモデル加盟店アウトプット利活用集計・分析インプットリピーター分析決済データオンラインツールマーケティングPOSデータ新規顧客分析報告書商圏分析外部データインバウンド分析決済事業者(出典)内閣府「国民経済計算」、一般社団法人 日本クレジット協会「クレジット関連統計」、日本銀行「決済動向」、みずほフィナンシャルグループ「キャッシュレス社会の実現に向けた取組み」、一般社団法人 キャッシュレス推進協議会「キャッシュレス調査の結果について」、経済産業省「観光地におけるキャッシュレス決済の普及状況に関する実態調査」、経済産業省「キャッシュレス・ビジョン」、金融調査研究会「キャッシュレス社会の進展と金融制度のあり方」、環太平洋ビジネス情報「東南アジアで活発化するキャッシュレス決済」、アクセンチュア「フィンテック、発展する市場環境:日本市場への示唆」、世界銀行「Automated teller machines」、国立印刷局、経済産業省「キャッシュレスの現状及び意義」、日本経済新聞 2020.6.11朝刊 (注)文中、意見に関る部分は全て筆者の私見である。 ファイナンス 2020 Sep.57コラム 経済トレンド 75連載経済 トレンド

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