ファイナンス 2020年9月号 No.658
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コラム 経済トレンド75大臣官房総合政策課 石本 琢/深澤 瑛介/白井 斗京日本におけるキャッシュレス決済の進展と 今後の課題本稿では、日本におけるキャッシュレス決済の進展と今後の課題についての考察を行った。政府によるキャッシュレス決済推進・キャッシュレス決済比率について、政府は2025年6月までに40%、さらに将来的には80%を目指しているが、現状は20%台半ばとなっている(図表1)。※銀行振込も合わせると、決済に占めるキャッシュレス比率は50%超という試算もある。・キャッシュレス決済比率を高めることの効果としては、インバウンド消費の拡大、消費者の利便性向上、店舗の効率化、更には決済データの利活用による生産性向上が考えられる(図表2)。・キャッシュレス決済の促進及び消費増税後の消費喚起策として、2019年10月~2020年6月の期間に、キャッシュレス決済についてのポイント還元事業が実施された。キャンペーン期間を通して、キャッシュレス利用者の割合は増えた一方で、ポイント還元後にキャッシュレスの利用を止めるとの回答もあり、継続したキャッシュレス決済の利用・普及にまで至っていないことが窺える(図表3)。図表1 キャッシュレス決済比率の推移と目標18.8%20.7%22.0%24.8%27.2%40.0%80.0%20%40%60%20406020252019201820172016中長期0800%80%2015(兆円)キャッシュレス決済金額(左軸)キャッシュレス比率(右軸)図表2 キャッシュレス決済による店舗の 効率化業界内容削減金額金融業界・ATM網運営コストの削減約1兆円・現金管理にかかる店頭オペレーション、固定費の削減小売/外食業界・人件費削減約3兆円合計約4兆円図表3 ポイント還元事業前後の消費者の意向73.4%30.9%24.2%14.2%19.3%16.6%37.5%44.6%12.4%14.6%100%80%60%40%20%0%ポイント還元終了後2020年5月(n=27,493)2019年11月(n=27,798)キャッシュレスを利用したい利用したくないこれまでよりもキャッシュレスで支払う頻度が増えたどちらかというと、これまでよりもキャッシュレスで支払う頻度が増えたこれまでと変わらない   キャッシュレス支払いは利用していない消費者からみたキャッシュレス決済・消費者のキャッシュレス決済に対する関心度にはばらつきがみられ、アンケート調査によると、消費者の約半数がキャッシュレス決済手段を持っておらず、また、手段を持っていない者の中でも関心がある層とない層に分かれる(図表4)。・日本において、キャッシュレス決済手段を持たない人たちが多い背景としては、諸外国と比べATMの台数が相対的に多いことや、偽札の流通が少ないことなど、現金の利便性が高いことが挙げられる。(図表5、図表6)・それに加えて、キャッシュレス決済によるお金の使いすぎへの不安や、消費者情報の漏洩など、キャッシュレス取引に対する懸念も、消費者によるキャッシュレス決済手段の利用を躊躇させる要因になっていると考えられる。(図表7)図表4 消費者区分 (2017年)区分概要割合キャッシュレス決済手段保有者ヘビーユーザー層キャッシュレス決済の利用頻度が50%を超え、利用が習慣化している層35%ライトユーザー層キャッシュレス決済の利用頻度が50%を下回るものの、推進施策によってはヘビーユーザー層に変わる可能性のある層24%キャッシュレス決済手段未保有者キャッシュレス関心層キャッシュレス決済が、より魅力的(便利・お得・安全 等)になれば利用する層33%キャッシュレス無関心層現金利用が制限(利用場所の制限、ATMの減少等)されれば利用する層7%現金岩盤層何があっても現金を利用し続ける層1%図表5 成人1万人当たりのATM台数(2015年)020406080100120140スウェーデンシンガポール中国フランス日本(台)図表6 紙幣流通量に対する偽札の割合(日本を1とする)1,6196382161(注)米ドルは2006年、それ以外は2012年02,0001,5001,000500英ポンド米ドルユーロ日本円図表7 現金決済をしたい理由 (2018年)13.2%13.9%27.8%34.7%57.2%60%40%20%0%残高やパスワードが管理しにくい紛失・盗難が不安現金以外で支払う必要がないセキュリティが不安お金を使っている感覚がせず、使いすぎてしまう(注)n=3,000 複数選択可56 ファイナンス 2020 Sep.連載経済 トレンド

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