ファイナンス 2020年9月号 No.658
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感した陸軍の最高幹部たる彼らとしては、主戦派を抑えることができなければ内乱を招きかねないという懸念が大きかったであろう。だから、主戦派抑え込みの見通しが立った時点で、淡々と了解できたのであろう。前記映画を観てもう一つ筆者が疑問に思ったのは、宮城事件の首謀者が陸軍省軍務局の中・少佐たちであって、参謀本部の将校ではなかったということだ。陸軍の政治や各省との接点である軍務局は、開戦前、武藤章局長以下対米避戦派が大勢で、参謀本部の田中新一作戦部長、服部作戦課長等主戦派と対立していたことに照らすと違和感があった。これについて本書は、軍務局軍事課員たちは職務上ポツダム宣言受け容れをめぐる経緯に深く接する立場にあり、国体の護持により大きな不安を抱いていたという見方をしている。これに加えて、本書の指摘する梅津の人事的統制が、陸軍省にはその膝元の参謀本部ほど徹底していなかったということかもしれないと思う。著者は、本書の終章で「(陸軍は)主戦派・早期講和派・中間派と派閥が分かれたために、統一した見解をとれず、人事的に主戦派を排除するのに多くの時間が費やされ、戦争の終結が遅れたのである。組織のコンセンサスを得るのに、必要以上に時間を食うのは、今に通じる、日本の組織の問題点ともいえよう」と指摘している。私には、著者の言う「陸軍の派閥構造の複雑さ」が終戦の意思決定の遅れの原因なのかどうかはわからないが、上意下達を旨とする組織である軍にあってさえ、慎重な手順を踏んだコンセンサス形成を経てでなければ方針決定できなかったということは、日本型大組織の特質として銘記すべきであろう。同時に、戦時下の軍内において、松谷のように上司の意向に反する早期和平の意見具申をする余地があったのも「派閥構造の複雑さ」の故かもしれない。ヒトラーのドイツやスターリンのソ連で、このような意見具申をすれば、粛清は免れ得なかったであろう。いずれにせよ、組織の構成員が最善と考える意見を腹蔵なく表明し、指導部がそれを踏まえて適切な方針を、機を失することなく決定することは難事である。日本型大組織の場合、一番の問題は、サイレントマジョリティが意見を「腹蔵なく」表明するまでに時間がかかりすぎることのように思う。読み終えたら夕方だ。起き上がって台所に立つ。枝豆を茹でて塩を振り、ほうれん草も茹でておひたしにする。鰺の中骨と昆布とみつ葉で吸い物を作り、鰯をロースターに入れて焼く準備ができたら、間八のサクを引き作りにする。そしていよいよ鯵のなめろうに取り掛かる。味噌は少なめにして梅干しの果肉を加えて入念に叩いて粘りが出たら出来上がり。最後に水切りした豆腐を冷奴にして、さあ夕食だ。先ずはビールだ。我が家にしてはあっさりした夕食だが、なかなか美味。ついつい飯を丼に2杯半も食べてしまった。食べすぎ批判が出そうだ。食後に水羊羹と最中の両方を食することができれば大いに幸せなのであるが…。〈材料〉 鯵(小ぶりなものなら2~3尾)、梅干し1/2個(塩分控えめのものなら1個)、大葉4枚、ねぎ5センチ、みょうが1個、生姜3センチ大(いずれもみじん切り)、味噌小匙2(1)鯵を3枚におろす。身の部分の腹骨をすきとり、皮をはぎ、身を薄く切る。(2)梅干しの果肉、薬味、味噌を加え、包丁で叩く。(3)十分叩いて、滑らかになって粘りが出たら出来上がり。味が薄かったら醤油を垂らす。なめろう梅干し風味のレシピ(酒肴として4人分) ファイナンス 2020 Sep.55新々 私の週末料理日記 その40連載私の週末 料理日記

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