ファイナンス 2020年9月号 No.658
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私の週末料理日記その408月△日夏休み新々昨晩夜更かししたので、目が覚めたらもう9時だ。急ぎ朝飯を済ませて、デパートの地下の食品売り場に出かける。今年の夏は、自粛で楽しみが少ない。せめてたまにはおいしい食材を仕入れよう。精肉売り場で和牛のステーキ肉に心惹かれたが、やはり貧乏性なのだろうか、結局買ったのはハムの切り落としだけ。鮮魚売り場で、間かん八ぱちのサクを1本買ったものの、あとは貧乏性を遺憾なく発揮して鰯いわし4尾と鯵あじ2尾。野菜売り場でちょっと奮発しておいしそうな枝豆とトマトとほうれん草とみつ葉。それ以外は香辛料をいくつかと、豆腐。とはいえ、せっかくだからと一回りするうちに、和菓子店で水ようかんと最中を買い、パン屋でもいろいろ買って、さらにチーズ屋でも買ったりしたものだから、結局はかなり散財してしまった。今晩の献立は、間八の刺身と鰯の塩焼き、そして鯵をなめろうにしよう。なめろうは、房総の郷土料理だ。漁船の上で鯵を包丁で細かくたたき、味噌で味付けしたのが発祥と言われている。船上なので醤油だとこぼれてしまうから、味噌にしたとか。帰宅して、買ってきたハムとパンを食べ、早速に鯵の下準備にとりかかる。鰯も内臓をぬいてから焼いたほうがきれいに焼けるので、あわせて下準備する。鰺について、近時スーパーマーケットの売り場では、加熱して調理するよう表示されていることが多い。寄生虫アニサキスによる食中毒を懸念しているのだろう。アニサキスの成虫は鯨くじらの腸内に生息するが、卵は排泄物とともに海中へ放出され、孵化して、オキアミに寄生する。オキアミを食べた魚の内臓内でさらに生育し、最終宿主である鯨がその魚を捕食すると、鯨の腸内で成虫になるのだ。アニサキス幼虫が寄生している生鮮魚介類を生で食べると、同幼虫が胃壁や腸壁に侵入して激しい腹痛を招く危険がある。同幼虫侵入となると内視鏡手術で幼虫を摘出しなければならない。私の友人の一人は自家製の締め鯖さばで内視鏡のお世話になり、別の一人は烏いか賊の刺身で二度もあたった。アニサキス幼虫は、鯖、烏賊以外にも鯵を含め秋さんま刀魚、鰯、鮃ひらめ、鮭さけ、鰹かつお等の海産魚介類の内臓に幅広く寄生する。宿主が生きている間は内臓に寄生しているのだが、漁獲後鮮度が低下するにつれ、内臓から肉の部分に侵入する。だから、内臓を食べなくとも被害に遭うのだ。鯖は内蔵の鮮度の劣化が早いので、特に要注意である。鰺にしても、生食する場合は、まず鮮度の高い魚を買い、かつ早めに内臓を取り除くことが重要である。因みに酢や醤油では同幼虫は死なない。前述の知人の締め鯖の例にも見るとおりである。正露丸が効くという話を聞いたことがあるが、刺身のクレオソート和えは食べる気がしない。同幼虫は、加熱すれば60度1分間で死ぬから、焼いたり煮たりすれば問題ない。マイナス20度以下の冷凍状態では24時間で死ぬそうであるから、北海道で鮭をルイベにして食べるのは理に適っている。飲食店で供される締め鯖や鯖の刺身は、おそらく冷凍方式を活用していると思う。同幼虫は体長2cmほどなので、刺身をなるべく薄く切れば、目視で除去可能であり、また包丁で傷つければ簡単に死ぬ。アニサキス自体には毒素はないため、死んでしまえば口に入っても特に問題はないと言われている。前置きの話が長くなったが、要するに、鯵も速やかにはらわたを取った上で、なめろうにして包丁で細かく叩けば、生きたアニサキス幼虫を摂取してしまうおそれはまずあるまいということだ。魚の下準備を済ませたら、横になりたくなった。昨晩、11時過ぎからネット配信で映画「日本のいちば ファイナンス 2020 Sep.53新々 私の週末料理日記 その40連載私の週末 料理日記

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