ファイナンス 2020年9月号 No.658
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ス州アボット知事(共和党)はルーサー氏を2日で釈放。一躍シャットダウン反対のシンボルに祭り上げられたルーサーさんが刑務所から出てくる際には、大勢の支持者の歓呼の声に迎えられることとなった。共和党支持者から話を聞くと、民主党がシャットダウンの長期化を支持しているのは、経済の閉鎖を長引かせて、11月の大統領選挙を最悪の経済状況で迎えることが、民主党候補にとって有利であるからに他ならない、といった考え方が広く受け入れられているようであり、アメリカ社会の分断がこのようなところにも影を落としていると感じた。シャットダウン生活の長期化によって、特に経済的な影響を受けた層を中心にフラストレーションや異なる考え方を持つ人々への不信感が高まっていった。おわりにコロナ以前と以降をBC(Before Corona)・AD(After Disease)と称するジョーク*6もあるように、米国におけるコロナ以前とコロナ以後の生活様式(いわゆるnew normal)は大きく様変わりしている。コロナ以前から街中でマスクをつけている人が比較的多かった日本と異なり、米国の街中でマスクをつけている人を見ることはコロナ発生初期までほとんどなかった。それが本稿執筆時点では、少なくともワシントンDCにおいてはマスクをしていない人を探す方が難しいくらいである。ことあるごとにハグや握手をするという身体的な接触が行われることは、すっかり見かけなくなった。また、特に我々のようなホワイトカラーについては、これまでのように毎日オフィスに通勤(ワシントンDCは通勤のための渋滞の酷さが悪名高い)する必要はないのではないか、という「気づき」から、オフィススペースを縮減するといった検討が様々な業種で行われているという。筆者としても、これまでのビジネスランチやコーヒーの代わりに、オンライン上でお互いの家から近況を報告しあうことにもすっかり慣れてきた。もちろん、コロナ前のように、立食パーティーの場で一気に人脈開拓するといった機会が失われたの*6) BCは紀元前、ADは紀元後を意味する。*7) ワシントンDCを本拠地とするナショナルズは、2019年シーズンに初めてワールドシリーズを制覇し、ディフェンディングチャンピオンとして2020年のシーズンに臨む。2020年のシーズンは、例年(162試合)より大幅に試合数を減らして60試合で行われる予定である。は大使館職員としては大きな痛手ではあるのだが。そのような生活様式の変化にも関わらず、執筆時点(7月後半)において、全米特に経済活動の再開を急いだ南部及び西部の諸州における感染の再拡大が生じている。また、軌を一にして、議会では次なる大型の経済対策の議論が行われようとしている。一方で、先の見えない不安のなかではあるが、7月23日には無観客で米大リーグが再開するなど、人々は制約下で日常の小さな楽しみを取り戻しつつある*7。最後となるが、日本でもアメリカでも、自ら危険に身をさらしながらコロナ禍における社会を支えている、医療、運送、食料品業界などの従事者の方々に感謝を述べて、本稿を閉じることとしたい。◇ すっかり日常の一部となったウェブ会議の模様(筆者は右)◇  再開したショッピングモールに並ぶ、様々なおしゃれなマスクやフェイスシールド52 ファイナンス 2020 Sep.海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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