ファイナンス 2020年9月号 No.658
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短期間に大量の失業者が発生することとなった。こういった業界の労働者は低所得者層が多く、FRBの調査によっても、今回の危機では低所得者層がより深刻な影響を受けたことが明らかにされている。CARES Actにおいては、こうした失業者が受給することができる失業手当について、一人当たり週600ドルの上乗せが7月末までにわたって措置されることとなった。州によって失業手当の金額は異なるものの、2019年の平均的な失業手当の金額は約380ドル/週であったため、この措置により、失業手当の受給額が3倍近くになったことになる。失業手当の上乗せ措置は最も経済的に影響を受けた人々のライフラインとなった一方で、経済活動の再開を妨げるのではないかという批判も財政規律を重視する保守派を中心に聞かれている。すなわち、足元でフルタイム労働者の半分は週給1,000ドル未満であり、週に1,000ドルを超える失業手当を受給できる現状では、職場に戻るインセンティブが働かない、というものである。同措置は7月末で期限を迎えることから、本稿執筆時点において、延長するか否か、延長する場合にはどのような条件を設けるか、ということが次の経済対策の大きな論点の一つとなっている。シャットダウンの党派性 米社会の分断3月後半には全米各州で次々と在宅命令(Stay-Home order)が発せられ、グローサリーストア等不可欠な活動(essential business)を除いては、ほとんどの経済活動が停止することとなった。ワシントンDC及び近接するバージニア州・メリーランド州でも3月30日に在宅命令が発せられ、この時点で全米市民のおよそ4分の3が在宅命令下にあったとされている。また、3月31日にコロナ対策タスクフォースの記者会見において、バークス博士から今後の感染の見通しが述べられた。何もしなければ米国内で150万人から220万人の死者が、ソーシャルディスタンス等の十分な対策をとった場合であっても10万から24万人の死者が予想される、という政府としての見通しが初めて公表され、衝撃的な数字であると報道されていたのをよく覚えている。(3月31日時点の全米での累計の死者は2,405人。)しかしながら、足元の数字と比較してみるとこの予測は決して悲観的過ぎるものではなかったということがわかる。そんななか、コロナ対策としていつまで経済活動を停止(シャットダウン)すべきかということについて、米国では、主に民主党支持者が経済活動の停止を支持する一方で、共和党支持者は反対するという、党派的な対立が激化することとなった。象徴的な事件がテキサス州ダラスの小さなヘアサロン「ア・ラ・モード」で起きた。サロンのオーナーであるシェリー・ルーサーさんは、当時テキサス州でヘアサロンの営業は禁止されていたにも関わらず、生活のために必要であるとして4月24日に営業を再開したところ、逮捕され、7,000ドルの罰金及び1週間の収監を命じられた。ルーサーさんの逮捕・収監はシャットダウンに反対する保守派の大きな反発を招き、たちまち政治問題化。ヘアサロンの周りを武装した集団が取り囲む騒ぎとなり、問題を重く見たテキサ◇ 米国における失業率の推移019481950195219551957195919621964196619691971197319761978198019831985198719901992199419971999200120042006200820112013201520182020246810121416(出所)FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis2020年4月の失業率14.7%(戦後最悪) ファイナンス 2020 Sep.51海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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