ファイナンス 2020年9月号 No.658
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たが、3月後半にファシリティの設立が立て続けに発表されたことで、市場は落ち着きを取り戻した。FRBがまさに「最後の貸し手(lender of last resort)」として流動性危機を防いだのであった。急転直下の議会審議 史上最大の経済対策米国では日本の予算に当たる歳出法案の立案は政府ではなく議会で行われる。今回のような緊急時の経済対策となる歳出権限を政府に授権する法案についても、議会主導で策定が行われるのが通常である。ただし、現在の米国議会は、上院を共和党が、下院を民主党がそれぞれ支配しており、両党の党派的駆け引きにより、重要法案がなかなか可決されないということが度々生じている。両党の綱引きの結果、歳出法案がなかなか成立せず、2018年12月から2019年1月にかけて35日間にわたる過去最長の政府封鎖が発生したのは記憶に新しいところである。しかしながら、今回のコロナ危機に当たっては、3月6日に成立した83億ドルの経済対策第1弾を皮切りに、3月18日の1000億ドル規模の経済対策第2弾、そして、過去最大の経済対策となる2兆ドル規模の第3弾の経済対策(CARES Act:Coronavirus Aid, Relief, and Economic Security Act)が3月27日に成立と、矢継ぎ早に両党の合意による経済対策が打ち出された。前述の通り、FRBが大胆な政策を次々に打ち出したことは、市場を落ち着かせることに大いに貢献したが、パウエル議長が議会証言などで何度も強調した通り、中央銀行に認められているのは貸出能力(lending power)であり、支出能力(spending power)ではない。最も影響を受けた業界・人々に対して手を差し伸べるためには、貸し出しではなく給付の形での支援が不可欠であり、議会での対策はどうしても必要であった。ここでは過去最大の経済対策として注目を集めた経済対策第3弾(以降CARES Act)に絞って、いくつかの目玉施策を概説することとしたい。なお、CARES Actの立法過程において特筆すべきは、ムニューシン財務長官の活躍である。前述の通り、現在の「ねじれ」議会において法案を成立させるためには、民主党・共和党両党の協力・合意が不可欠であるところ。報道によれば、ムニューシン財務長官はホワイトハウスとの信頼関係をテコとしながら、信用できる交渉相手として野党民主党の信頼も得て、百戦錬磨の議会リーダーである民主党のペロシ下院議長、共和党のマコネル上院院内総務らとの交渉をまとめ上げたとされている。なお、3月18日時点の報道では財務省案では1兆ドル規模、とされていた対策の規模であるが、交渉過程で両党の重要施策を盛り込んでいくうちに金額が積みあがり、最終的にふたを開けてみれば2兆ドルにまで規模が膨れ上がることとなった。◇ ダウ工業平均の値動き(終値ベース)150002000025000300001/1/20173/1/20175/1/20177/1/20179/1/201711/1/20171/1/20183/1/20185/1/20187/1/20189/1/201811/1/20181/1/20193/1/20195/1/20197/1/20199/1/201911/1/20191/1/20203/1/20205/1/20207/1/20202017/1/20 トランプ大統領就任(19,827.25)2020/3/23 コロナ後最安値(18,591.93)2020/2/12 史上最高値(29,551.42)(出所)FRED, Federal Reserve Bank of St. Louis ファイナンス 2020 Sep.49海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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