ファイナンス 2020年9月号 No.658
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ランプ大統領が冒頭から質疑応答まで出席し、その発言の数々が日々の紙面をにぎわせることとなった。なお、報道では、トランプ大統領とファウチ所長をはじめとする「専門家」の間で意見が対立していると報じられることも度々あった*1。これまで経験したことのないこのような危機において、だれがどのように判断し、どのように国民とコミュニケーションをとるべきなのか、ということは万国共通の課題であると感じた。また、今回の危機における各州知事たちの活躍も忘れてはなるまい。米国は連邦制(United “States”である)をとっていることから、各州政府の権限が大きく、例えば後に述べるようにコロナ対策としての経済活動の制限(あるいはその解除)ひとつとっても、連邦政府の基準はあくまで「ガイドライン」に過ぎず、それを踏まえて各州政府(もしくはその下に属する郡などの地方政府)が最終的な決定権限を握っている。特に、3月から4月にかけて最大のホットスポットと*1) 7月15日に公表されたQuinnipiac大学の世論調査によれば、米国民の67%はトランプ大統領が提供するコロナ関連情報を信頼しない、一方で、65%の米国民がファウチ所長の提供する情報は信頼する、と回答している。*2) 7月に公表されたもので、コロナの新規感染者数のグラフを山に模して描いている。クオモ知事はポスターアートが個人的な趣味とのことで、州知事としての活動を表現するポスターをこれ以前にも公表している。19世紀後半から20世紀初頭のポスターアートにインスパイアされたデザインであり、PCR検査の模様や記者会見テーブルなど、コロナとの闘いが細かく描きこまれている。山頂には「愛は勝つ(Love wins)」とのこと。芸術としての評価は賛否両論のようだ。なったニューヨーク州のクオモ知事は、同州での感染者増加が激化した3月初旬から6月19日まで毎日会見を行い、トップ自ら州民たちへの迅速な情報提供に努めた。刻一刻と変化する情勢の中で、陣頭指揮をとりながら毎日記者からの厳しい質問に晒されるのは、相当の心労であったようで、最後の会見となった6月19日の会見においては、知事自ら「地獄の111日(111 days of hell)」であったと語っている。国家非常事態宣言 外出抑制の始まり3月13日、トランプ大統領はホワイトハウスの中庭(ローズガーデン)における記者会見で、国家非常事態(national emergency)を宣言した。これにより、州・地方政府に対して420億ドルの緊急事態用の連邦基金をコロナ対策として用いることができるようになった。3月15日、CDC(米国疾病予防管理センター)が、今後8週間にわたって50人以上の集会を行わないよう勧告を発出。翌16日にはトランプ大統領から、向こう15日間は、10人以上の集会やレストラン・バー・フードコートでの食事を避け、できるだけ在宅勤務を行う、不必要な旅行も避けるべき、という要請「感染抑制のための15日間」が発出された。同日、感染拡大が懸念されていた西海岸のサンフランシスコ・ベイエリアの6つの郡において、原則外出禁止令(shelter-in-place order)が発せられ、必要不可欠な活動を除く外出が禁止された。ベイエリアの動きは、後に全米各州に広がる外出禁止措置の先駆け的な動きであったということができる。ちなみに、筆者自身は、この以前の3月9日の週を最後に、後に制限が緩和されるまでの3カ月以上にわたって、外食をすることはなく、また、大使館勤務も16日の週から段階を経て、原則として在宅勤務へと切り替わった。米財務省をはじめとする政府関係機関についても同様に、この時期から在宅勤務へ切り替わっていったと聞いている。◇  クオモ知事自らデザインに携わったというNEW YORK TOUGHポスター*2(出所)ニューヨーク州政府ウェブサイト ファイナンス 2020 Sep.47海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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