ファイナンス 2020年9月号 No.658
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はじめに2020年2月29日、シアトル近郊の病院に入院していた50代の男性が死亡。全米で初めてのコロナウイルスによる死者として報じられた。それから5カ月あまりの間で全米におけるコロナウイルスによる死者は10万人を超え、本稿執筆時点(8月2日)で154,002人を数える。これはベトナム戦争(5万8千人)や第1次世界大戦(11万7千人)における米兵の死者をはるかに上回る数であり、今回のウイルスが米社会に与えた衝撃は計り知れない。危機はなお現在進行形であるが、本稿では、米国がこのような未曽有の危機に対してどのように対応したかということを、その初動、特に財政・金融上の対策を中心としながら振り返ってみたい。◇ 米国における歴史上の出来事での死者数2,9772,9774,4354,43536,57436,57458,22058,220116,516116,516154,002154,002405,399405,399620,000620,000675,000675,0000200,000400,000600,000800,0009.11 テロ独立戦争朝鮮戦争ベトナム戦争第1次世界大戦COVID-19(8月2日時点)第2次世界大戦南北戦争スペイン風邪(出所)TIME誌ホワイトハウスコロナ対策タスクフォース 対応のキーパーソンたち米国において、連邦政府としてのコロナ対策の司令塔となったのがホワイトハウスに設置されたコロナ対策タスクフォースである。同タスクフォース自体は1月末に既に設置されていたが、本格的にリーダーシップを発揮し始めたのは、2月26日にペンス副大統領がタスクフォースのリーダーとして指名されてからである。同時に、エイズ対策の分野において米国代表として世界各国との協調を推進してきたバークス博士も、コロナ対応調整官としてチームに加わった。ペンス副大統領、バークス博士と並んで、コロナ対応タスクフォースにおいて国民とのコミュニケーションを担ったのが、国立アレルギー感染症研究所長のファウチ所長である。ファウチ所長はなんと1984年から(!)同研究所の所長を務めており、感染症対策の専門家中の専門家として名高い。記者会見におけるわかりやすい説明も相まって、ファウチ所長は国民の信頼を集めていき、こののち政府におけるコロナ対応の顔として知られることとなる。3月16日以降、同タスクフォースの会見はほぼ毎日夕刻にホワイトハウスにおいて開催され、CNN等主要ケーブルチャンネルにおいて1時間以上にわたって全米に生中継された。この記者会見はホワイトハウスがコロナ対応について国民とコミュニケーションをとる最も重要なツールとなり、4月の終わりごろまで、ほとんど毎日開催された。また、ほとんどの場合、トFOREIGN WATCHER海外ウォッチャー米国における新型コロナウイルスとの闘い-ワシントンDCから見た100日間-在米大使館 一等書記官 喜多 良寿◇  左からファウチ所長、ペンス副大統領、バークス博士(4月8日ホワイトハウスでの会見)(出所)White house ickr46 ファイナンス 2020 Sep.連載海外 ウォッチャー

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