ファイナンス 2020年9月号 No.658
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2エイゴの本家今度は英国人。もう20年近くの付き合いの男で、今やSirの称号を得ている。この英国人と、ある日本人について話をしていた時、「アイツは英国風アクセントで話をする」という意味で当方が「He speaks British English, rather than American English」と言った。すると、極めて珍しく、彼はやや厳しい顔をして、こう言った。「You mean, he speaks ENGLISH.」これは「彼は英語を話す」という意味では無い。「英国の英語が英語なのだ」という意味である。これは本当の本音である。彼のプライドを傷つけてしまったことをお詫びするしかない。「British English」というのは、彼らには受け入れられない表現なのだ。それからというもの、例えば私が「downtown」という単語を使うと、「You mean, city center?」と柔らかに「ENGLISH」に訂正してくれるようになった。顔は(多分)笑っているので、8割冗談であろう。こういうところが彼の良いところである。少し脱線するが、オーストラリア人英国人米国人では用語法や単語の使い方が違うのは、既に以前にスペードの文脈で詳しく書いた通りであるが、ADBで私の上司だったオーストラリア人は、特に短くシャープな用語法を使う。例えば「あなたの文章は字が多すぎる!」というのはWordyという一語で済ます。「じゃあ文章を修正しておいて。細かいところもちゃんとね」というのは、Tidy it up !で済ます。お部屋の片づけ以外の意味を知らない私は、面食らう。更に、「あいつ、裏技ばっかり使って、仕事のやり方が変なんじゃないの?」という突拍子もなく難しい人格批判の表現は、He is naughty!! と言う。こんな単語、6歳の女の子が悪戯した時だけの表現だと思っていたが、違うようである。これを上記英国人に言ったら何と言うかは、想像すると怖い。「Those words are naughty」と言って笑ってくれるだろうか。(いずれも本当に「ENGLISH」だったら、すみません。少なくともwordyは大丈夫かな。)エイゴは、むずかしいね。3苗字か名前か、それが問題だこれまで米国に留学し、IMF、世銀、ADBという国際機関で仕事をしていて、ある程度仲良くなったらファーストネームで呼び合うのが普通だと思っていた。しかし、世の中、さまざまである。ADB勤務時代、スコットランド出身の部下に、「君は故郷では何と呼ばれているの?」と聞いたら、答えは意外だった。「スコットランドでは、相当仲良くならない限り、お互いを苗字で呼ぶ。相当仲良くなっても、お互いを苗字呼び捨てで呼んでも全然おかしくない。米国人のように1回会っただけですぐにファーストネームで呼ぶのは、自分のセンスでは少し失礼な感じがする。」その感覚は、日本人のそれに近いではないか。それではと、ドイツ生まれのオーストリア人に同じ質問をした。「そこまでではないが、自分も似た感じを持っている。」「え??」「心を許せる友人以外の人をファーストネームで呼ぶのは、どうも失礼な気がして、躊躇われる。ビジネス上の関係では猶更だ。国際的な場面ではお互いをファーストネームで呼ぶことも多いが、心の中では少し申し訳ない、という感じがしている。」他方で、フィリピン人はやや方向が違う。常にフレンドリーなフィリピン人はファーストネーム中心主義なのだが、敬意表現が必要な場合は、ファーストネームに敬称をつける。しかも、男女で違いがあり、女性にはMs.を付け、男性にはSirを付けることが多い。例えば、Vicky Diezという女性のことを、フィリピン人はMs. Vickyと呼ぶ。Pierre Zhukovだったら、Sir Pierreになる。そんな用語法は学校で習ったことは無いのだが、これがフィリピンの人の親愛の情と敬意の間のバランスなのだろう。少なくとも、「日本人は特殊」だとか「世界は日本以外はみな同じ」的なことを聞いたら、疑ってかかった方が良い。膝を詰めて腹を割って話すと、日本人の発想や感性を分かち合える人を、意外な国で見つけられるかもしれない。 ファイナンス 2020 Sep.39新・エイゴは、辛いよ。SPOT

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