ファイナンス 2020年9月号 No.658
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いよいよ今回で連載5回目、ひと区切りとなる。今まで辛抱強く読んで頂いた皆様に厚く御礼申し上げる。前号では、パラオ語と日本語は出てきたがエイゴはちっとも出てこないではないか、という(事前に恐れていた)ご指摘は1つも来ず、読者の皆様の心と受けの広さに改めて深く感謝する次第。前号までも、国により人により考えは様々という趣旨のことを書いてきたつもりであるが、今回は、いろいろな事情で世界の人が声に出さないところに本音があり真実がある、それを探ることが難しいが大事、という話をしたい。1俺の酒が飲めないのか今回も重くない話から始める。私がADB(アジア開発銀行)勤務時代に職員への離職通告などで苦楽を共にした、法務局のオーストラリア人幹部がいた。オーストラリアワインの造詣が深く、この点でも世話になったのだが、私の帰国前に開かれた送別レセプションで、この男がウーロン茶を飲んでいた。理由を尋ねると、「体重が増えてきたので、夜8時より前は酒を飲まないことにした」と言う。は??? いつも論理的なこの男にしては非論理的、夜遅く酒を飲む方が体重は増える筈。6時から8時まで飲んで終わりにすれば良いではないか。そう指摘し、更に「俺のための送別会なのに俺の酒が飲めないのか」的な、救いがたい非論理的なエイゴを話した。彼は苦笑しながら、「いや、悪く思わないでくれ。今飲んでしまうと、結局夜10時まで飲んでしまう。自分の自己管理能力に自信が無いんだ」と、あくまで謙虚に、しかし自分のポリシーを貫く。業務上あんなに自分に厳しい奴なのに、酒だと違うのかなと、何となくその時は納得した。しかし、それから2年以上経って、先月、はたと気が付いた。違う。奴は、帰宅後に奥さんと飲みたかったんだ。今、俺とじゃなくて。2時間限定なら、そっちの方が良いと。こんな簡単なことに気付くのに2年もかかるなんて。さすが法律家。本音を隠すのが上手い。それとも、俺が鈍すぎるのか。。。新・エイゴは、辛いよ。大矢 俊雄―第五回(最終回) 沈黙の中の真実編―俺の酒を断る30分前の写真(どこかに本人がいます)38 ファイナンス 2020 Sep.SPOT

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