ファイナンス 2020年9月号 No.658
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大峯奥駈道は、世界遺産に登録されている3つの霊場のうち、「吉野・大峯」と「熊野三山」を結ぶルートで、他の熊野古道は熊野三山へ参拝するための「参詣道」という色が強いのですが、この大峯奥駈道は山伏たちの「修験の道」。「修験の道」にふさわしく、紀伊半島の背骨である紀伊山地の標高1200~1900mの山々を縦走し、距離にして約90キロ、累積標高は7000m超の日本屈指のロングトレイルとなっています。伝説によれば修験道の開祖とされる役えんのおづの小角が8世紀に開いたとされ、道中には75の靡なびきと呼ばれる修行場があり、この道を踏破する「奥駈」は修験道の中でも重要な修行とされているそうです。以下、令和の初めにこの修験の道「大峯奥駈道」を縦走した実際の道程に沿って、その魅力をお伝えしたいと思います。1~2日目:霊場「吉野・大峯」和歌山県南部の熊野本宮大社へと繋がる大峯奥駈道の始点は奈良県の吉野。吉野山に位置する金きんぷせんじ峯山寺は山岳信仰の霊地であり、修験道の中心的寺院です。吉野山から山上ヶ岳までの一帯は金峯山と称され、早くから皇族や貴族の信仰の対象となっていたそうです。吉野から山上ヶ岳までは日をまたいで概ね8時間ほどの時間を要しましたが、その間の道中には茶屋跡が多く残っており、過去の隆盛が伺えます。山上ヶ岳の頂上に位置する大峯山寺は修験道の最も重要な聖地となっており、その威厳のある堂々とした本堂を前にすると身が引き締まります。また、山上ヶ岳の周辺は、現在もなお宗教上の理由で女人禁制となっており、実際にその周囲には「女人結界門」なる門が設けられている日本でも珍しいエリアとなっています。写真 山上ヶ岳山頂、霧中の大峰山寺和歌山は徳川御三家・紀州徳川家のお膝元であり、徳川家康公を祀る「関西の日光」紀州東照宮があります。和歌山の春の風物詩は、毎年5月に行われる紀州東照宮の例祭・和わかまつり歌祭。和歌祭のハイライトは、紀州東照宮の名所である108段の急勾配の石段、通称「侍坂」を、神輿を担いで降りていく大迫力の「神輿おろし」です。白装束を身にまとった担ぎ手が「チョーサ、チョーサ」と大声を張り上げながら、1トンを超える神輿を上下左右に大きく揺り動かしながら石段を降りていく勇壮な姿は圧巻です。私も地元の方々のご好意で担ぎ手に混ぜてもらいましたが、あまりの重みに命の危険を感じるほどでした。紀州東照宮が完成した翌年(元和8年(1622年))から続くこの和歌祭は、令和4年(2022年)で400周年を迎えるため、それを祈念して、400年の式年大祭が計画されているところです。令和2年の和歌祭は残念ながら中止となってしまいましたが、式年大祭が盛大に執り行われることを祈っています。写真 和歌祭名物「神輿おろし」コラム1 和歌山の春~紀州の大祭、和歌祭~28 ファイナンス 2020 Sep.SPOT

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