ファイナンス 2020年9月号 No.658
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に、4月のロックダウンは生活必需品を販売するスーパー等を除きすべて閉鎖するほど厳しいものであり、その結果、都市部で飲食業や製造業等に従事していた出稼ぎ労働者等を中心に雇い止めが相次ぐ事態となったことが大きな原因とされている*24。その後、経済活動が一部再開し、6月の失業率は11.0.%と大幅に改善し、7月28日現在ではCOVID-19発生前と同水準の7.8%にまで回復している。6月以降に急回復していることから、失業率の増加はロックダウンによる一時的な現象のように見受けられるが、今後、企業収益の悪化が顕在化してくれば、日雇い労働者のみならず、常勤雇用の労働者も多数失業し、再び失業率が悪化する懸念がある。COVID-19は、貿易活動にも大きな影響を与えている。インド商工省の統計によると、4月の輸出額は前年同期比-61%、輸入額も-60%と、ロックダウン後の1ヶ月で3月の半分程度に急速に悪化した。品目別では、宝石・貴金属類は-98.7%と驚異的な減少を示し、機械類も-79.3%、自動車類は-92.4%とインドの主要輸出品目の輸出額は軒並み大幅に減少した。皮肉なことに、輸入額が急激に落ち込んだことにより、6月に18年ぶりとなる貿易黒字を達成している。ただし、経済活動が収縮し、貿易量が縮小する中での出来事であるため、ポジティブに捉える事は難しいと思われる。COVID-19がもたらす深刻な景気の減速は、上述したように、既に様々な経済活動へ影響を与えているが、これらに加えて、財政赤字の悪化の懸念も高まっている。今年2月に発表された2020-2021のインド予算案では、前年度(改定値)から税収が約1兆ルピー増加し、財政赤字の対GDP比も3.5%と、0.3%の改善を想定していた。しかし、今般の景気悪化に伴う企業収益の悪化から、想定より税収が落ち込む可能性が極めて高いと言えよう。また、予算案における借入額が増加傾向にある中*25、後述する経済対策も相まって、財*24) 日本経済新聞(2020.5.14)https://www.nikkei.com/article/DGXMZO59126300U0A510C2EAF000/*25) 2020-2021政府予算案によると、直近3か年の借入額はそれぞれ約6.5兆ルピー(約9.1兆円)、7.6兆ルピー(約10.6兆円)8兆ルピー(約11.2兆円)と増加傾向にある。*26) 米国の大手格付け会社は、6月1日、インドの自国通貨建て及び外貨建ての信用格付けを、投資適格の中で最も低い、「Baa3」に引き下げを行った。(NNA2020f)政赤字や債務の拡大は必至であり、既に大手格付け会社も、そのような景気減速と財政の悪化を理由に、インドの投資適格の引き下げを実施している状況*26である。(3)経済対策インド政府が公表した主な経済対策は、7月現在で、主に2つ挙げられる。まず、感染初期に全国的なロックダウンを行った直後の3月26日にシタラマン財務大臣は食料品の供給や低所得の女性に対する1,500ルピー(約2,100円)の現金支給など、低所得者層の経済支援を柱とした1兆7,000億ルピー(約2兆3,800億円)規模の経済対策パッケージを発表した。これは、ロックダウンにより収入が減るであろう貧困層への救済のための政策であると考えられる。更に、2か月後の5月13日から5日間連続で、中小企業支援、農業、インフラ、医療関係を網羅した包括的な経済政策パッケージの詳細を発表した。5月に発表された経済対策パッケージの概要は、以下のとおりである。・中小企業向け3兆ルピー(約4.2兆円)の無担保ローン等を含む中小企業支援策・出稼ぎ労働者、農家、小規模事業者、露天商向けの支援策・農林水産、酪農、畜産業関連のインフラ整備等を盛り込んだ支援策・石炭、鉱物、防衛、空港・航空宇宙、連保直轄領の配電公社、宇宙産業、原子力、民間航空などの構造改革・全国農村雇用保障法プログラムへの追加支出、オンライン診療やCOVID-19感染者との接触履歴トレースアプリの普及等の医療のデジタル化の取り組みこれらの経済対策は総額20兆ルピー(約28兆円)GDP比10%の経済対策パッケージであると発表された。この経済対策パッケージの投入発表時に、モディ首相は演説を行い、COVID-19による危機を乗り越え24 ファイナンス 2020 Sep.SPOT

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