ファイナンス 2020年9月号 No.658
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家電・電気製品及び機械・機械部品は約6%、約5%といずれの品目でも輸入超過の状態にある。つまり、自動車やバイク、通信機器などの付加価値の高い品目の輸出シェアが低く、石油価格の影響も受けやすい貿易構造であるといえよう。また、輸出はアメリカ、輸入は中国が最大の貿易相手国であり*17、アメリカと中国、2つの大国との関係がインドの貿易に大きな影響を与える可能性も懸念される*18。(2)COVID-19後:深刻な景気の減速IMFが6月に公表した経済見通し(4月からの改定)では、2020年の全世界の成長率は-4.9%と大幅に縮小すると予測し、類例のない危機であるとの見解を示した。また、世界銀行が同月に公表した経済見通しにおいても、全世界の成長率は-5.2%に縮小し、第二次世界大戦以来最悪の景気後退であるとの見解が示されている。この二つの国際機関の見通しにおいて、インドの実質GDP成長率は、-4.5%(IMF)、-3.2%(世銀)と予想されており、一転して深刻な成長鈍化が始まった事が示されている。【図表8】インド政府が公表した足元の成長率を見ても、急激な景気低迷が始まっている事が示されている。インド政府は6月、2019年第4四半期*19の実質GDP成長率は3.1%であると発表した(速報値)。2019年第1四半期から第4四半期まで連続して低下しており、最終*17) アメリカへの輸出は15.9%、中国からの輸入は13.7%。*18) 6月に発生した中印国境をめぐる対立の結果、インドは中国来貨物の検査を強化し、事実上差し止める等、貿易への波及が広がっている(NNA 2020c)。*19) 2020年1月~3月。インドの会計年度は4月~3月。*20) インド鍛造業協会(AIFI)によると、COVID-19の影響により中国からの部品供給が滞っており、インド国内の自動車生産が最大20%減少するとの見通しを示していた。また、1月~3月期の高級車販売台数は前年同期比35%減となり、COVID19による市場の冷え込みが要因であると分析している。(NNA 2020d,e)*21) JTROビジネス短信(2020.7.29)https://www.jetro.go.jp/biznews/2020/07/82a262b17c929ff1.html*22) SIAM*23) CMIE的に前年同期の5.7%から大きく悪化した。GVA成長率の内訳をみると、「製造業」及び「建設業」では、前年同期比-1.4%、-2.2%とマイナス成長を記録している。【図表9】この2つの業種は、COVID-19発生前の第3四半期にもマイナスとなっており、第4四半期の数値がどの程度COVID-19の影響を受けたかは推測しがたい。他方、インドは自動車部品等を中国からの輸入に頼っており、その供給が途絶えたことによる生産量の低下や*20、景気悪化の懸念からインフラ投資が減り、元々低迷基調であった製造業と建設業の低迷に拍車をかけた可能性は大いにあり得よう。なお、インドの自動車販売シェアは世界4位とも5位とも言われ、今やインドの成長を左右する一大産業となっている。ロックダウン後の4月~6月の自動車販売台数は、15万3,734台と前年同期から8割程度減少し、特に4月は全土封鎖による経済活動の全面停止に伴い、乗用車販売台数で「0台」を記録した*21。5月以降徐々に回復ししつあるものの、6月の乗用車生産台数は前年から51%減少した約109万台*22と、生産能力も依然不足している中、COVID-19前の水準に戻るには非常に時間がかかると予想される。雇用面をみると、足元では失業率が急激に上昇している。COVID-19前の2019年12月~3月にかけて失業率は7%~8%台で推移していたが、2020年4月の失業率は3倍近い23.5%を記録した*23。上述したよう図8:IMFと世界銀行の実質GDP成長率予想(%)IMF世界銀行※年度2020202120202021全世界-4.94.8-5.24.2インド-4.56.0-3.23.1アメリカ-8.04.5-73.9中国1.08.21.06.9日本-5.82.4-6.12.5ドイツ-7.85.4-9.14.5イギリス-10.26.3-9.14.5フランス-12.57.3-9.14.5イタリア-12.86.3-9.14.5※ドイツ、イギリス、フランス、イタリアは「Euro Area」の数値を掲載出所:IMF2020、World Bank図表9:インドの産業別GVA実質成長率(2019-2020第4四半期)2018-2019 Q4(1千万ルピー)2019-2020 Q4(1千万ルピー)成長率(%)農業・林業・漁業501,199530,6265.9鉄鋼業103,915109,2855.2製造業614,400605,738▼1.4電気・ガス・水道業71,65574,8634.5建設業273,046267,000▼2.2貿易・輸送・観光・通信681,786699,7512.6金融・不動産613,241628,1552.4公共サービス・防衛・その他437,564481,63010.1計3,296,8063,397,0483.1出所:インド統計計画実施省 ファイナンス 2020 Sep.23インドにおける新型コロナウィルスの現状と対応、経済への影響SPOT

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