ファイナンス 2020年9月号 No.658
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従事者だが、その農業を含めた第1次産業のGVAは15%しかなく、労働生産性が低い状況である。今後高い成長を維持するには、農業従事者がより生産性の高い第2次産業や第3次産業にシフトしていくこと、そのための雇用の受け皿となるべく、製造業などの拡大が進むことが不可欠である。財政赤字に関しては、2012年から2019年にかけてGDP比は概ね-3%後半から-4%台の赤字で推移している。インド財務省の予算案によると、歳入は2012年には約8.8兆ルピー(約12.3兆円)であったが、2019年には約18.5兆ルピー(約25.9兆円)に増加している。経済成長やGSTの導入などによる税収の増加*14が要因だと思われるが、歳出も2012年の約14.1兆ルピー(約19.7兆円)から2019年の約27.0兆ルピー(約37.8兆円)と拡大しており、収入の増加では賄いきれないほど歳出も拡大傾向にあると指摘することができる。歳出面での問題の1例として、政府が主に電力事業者や農業従事者に対し多額の補助金支出を行っている点が指摘されている*15。インドは送電設備の能力不足と頻繁な盗電により送電効率が悪く、慢性的な赤字経営に陥っている。そこに補助金を投入することで事業者の収益改善を目指すインセンディブが低下し、それ*14) 2012年の歳入のうち税収は約7.4兆ルピーで、2019年の税収は約15兆ルピーとなっている。*15) 熊谷 章太郎(2019.8.21)*16) 政府が市場価格より低い価格でコメや麦等を買い上げ、低所得者に低価格で提供する制度(Public Distribution System)。がさらなる非効率を生み出すという負の構造となっている。農業補助金に関しては、天候不順等の影響を受けやすい農業の安定生産のため、肥料や灌漑補助金を支出している。また、公的分配システム(PDS)*16による米や麦等の買い上げは、安定生産や穀物価格の安定、貧困層への生活維持に必要な政策であるが、政府が生産者から買い上げる価格(最低支持価格(MSP))は農家の生産意欲向上や農業従事者からの選挙票への配慮から上昇傾向にあり、財政をひっ迫させる要因となっている。経常赤字については特に貿易赤字が深刻である。インドでは、高い付加価値のある製品の輸出が少ないことに加え、原油の大部分を海外からの輸入に頼っていることが要因である。モディ政権以降(2014年)の高成長期でさえ、毎年7兆ルピー(約9.8兆円)を超える貿易赤字が発生しており、赤字が慢性化していると言える。インド商工省の2018-2019貿易統計を見ると、品目別の輸入シェアでは、石油類が約33%と最も大きく、付加価値の高い家電・電気製品及び機械・機械部品も約10%、約9%を占めている。その反面、輸出シェアでは、石油類が約15%で、図表6:輸入品目別シェア石油・石炭類33%宝石・貴金属類13%家電類10%機械・機械部品9%有機化学品4%プラスチック製品3%鉄鋼2%その他26%出所:インド商工省図表7:輸出品目別シェア石油、石炭類15%宝石・貴金属類12%機械・機械部品6%有機化学品6%自動車類5%医療品4%家電類4%その他48%出所:インド商工省22 ファイナンス 2020 Sep.SPOT

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