厳しいものであった。モディ首相はこのような厳格な措置をとったにも関わらず、新規感染者数は漸増したため、5月30日よりインド政府は全国一律のロックダウンを段階的に解除し始め、現在は州政府主導による規制の実施へと移行している。感染者が増加する中、インド政府によるロックダウンの緩和は、ロックダウンの長期化による経済活動の停滞を防ぐことが目的であったと考えられる。3インド経済情勢前章では、インドにおけるCOVID-19の感染状況と感染防止策について紹介した。ここからは、COVID-19の感染が見られる前・後のインド経済情勢について整理したい。(1) COVID-19以前:一定の経済成長の 実現と課題COVID-19以前のインド経済を見ると、2018年の実質GDPは2兆7,180億ドルであり、世界で7番目、アジアでは中国、日本に次いで3番目の規模にまで成長していた。また、実質GDP成長率(対前年比)は、第1次モディ政権発足後の2014年から2018年の平*10) インド統計実施省のGDP統計によると、2015-2016期の実質GDPに占める個人消費は、約6.2兆ルピーであったが、2018-2019期では約7.9兆ルピーの増加を示した。同じく総固定資本形成は約3.5兆ルピーから約4.5兆ルピーの増加を示した。*11) これまで破産複数の法律に分かれていた破産に関する規定を修正、統合し、手続きの明確化、迅速化等を行った。*12) 制度が異なり複雑であった中央政府と州政府の税体系の一本化を行った。*13) 世界銀行が発表する「ビジネス環境ランキング(Ease of Doing Business)」では、2014年の134位から徐々に改善し、2020年は63位となっている。均では約7.4%であった。IMF(国際通貨基金)の「世界経済見通し」(2020年1月)によると、2019、2020年は、金融ストレスによる国内需要の成長減速等を理由に、4.8%、5.8%と成長の鈍化が予想されていたものの、依然として一定の成長が続くものと考えられていた。こうした成長を支える要因としては、約13億の人口を抱え、GDPの約6割を占める旺盛な個人消費や、官民の設備投資が堅調であった事が挙げられる*10。加えて、2014年の政権交代以降モディ政権が推し進めた、道路、鉄道開発等のインフラ開発や、破産法の制定(2016年)*11、GST(物品・サービス税)の導入(2017年)*12などの、ビジネス環境を改善する一連の政策が投資の拡大に寄与したとも考えられる*13。他方、持続可能な経済成長を実現するための課題も抱えている。主な課題としては、1次産業に比重の高い産業構造、慢性的な財政赤字、経常赤字などが挙げられる。産業構造については、2018-2019の産業別GVA(粗付加価値)を見ると、全体の65%が第3次産業である一方、第2次産業は21%、第1次産業は15%となっている。【図表5】全就業者のおよそ5割は農業図表5:産業別GVA構成比農業・漁業等15%鉄鋼業3%製造業18%電気・ガス・水道業2%建設業8%貿易・観光・通信等19%金融・不動産22%公共サービス・その他13%第1次産業15%第2次産業21%第3次産業65%出所:インド統計計画実施省図表4 インド政府によるCOVID-19対策1/30インド国内で初の感染者発見2/5中国からのビザを無効化3/3デリーで初の感染者が発見される日本、イタリア、韓国、イランへ発行しているビザを無効化3/12外交官ビザ・就労ビザを除くすべてのビザを無効化3/19国際旅客機の着陸禁止モディ首相が3月22日の午前7時から午後9時まで外出を自発的に制限するよう求める3/223月31日までの外出禁止令を発表3/244月14日までのロックダウンを発表4/14ロックダウンを5月3日までに延長4/154月20日以降は一部地域で限定的に商業、生産活動の再開を承認5/1ロックダウンを5月17日までに延長5/17ロックダウンを5月31日までに延長5/25平常時の1/3の国内旅客機を運航再開5/30封じ込めゾーン以外のロックダウンを段階的に解除6/29封じ込めゾーンのロックダウンを7月31日まで延長それ以外の地域では活動制限を緩和する出所:日本貿易振興機(JTRO) ファイナンス 2020 Sep.21インドにおける新型コロナウィルスの現状と対応、経済への影響SPOT
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