ファイナンス 2020年8月号 No.657
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日本の雇用環境は、アベノミクスの成果もあり長期にわたり改善を続けてきた結果、令和元年平均の有効求人倍率は1.60と高い水準を維持していた。しかしながら、新型コロナウイルス感染症の影響により新規求人が減少すること等により、有効求人倍率は6月時点で1.11(季節調整値)まで減少している。完全失業率は令和元年平均で2.4%とバブル期以来の低水準だったが、完全失業率は緩やかな上昇が続き、6月には2.8%となっている。それでも、米国を含む一部先進国で失業率が10%を超える状況になっていることにかんがみれば、日本の失業率は比較的低位で推移している。他方で、休業者は、通常200万人弱程度で推移しているところ、本年4月には597万人まで急増している。5月には緊急事態宣言の解除等もあり、休業者数は423万人となり、6月には236万まで減少したが、引き続き高い水準にあり、引き続き注視していく必要がある。また、労働市場における変化は女性や高齢者等が強く影響を受けているなど、影響にばらつきが生じていることにも留意する必要がある。世界経済・日本経済の先行きについては、感染拡大の防止策を講じつつ、社会経済活動のレベルを段階的に引き上げていく中で、各種政策の効果もあって、令和2年の後半以降、厳しい状況から持ち直しに向かうことが期待されている。国際機関や民間エコノミストの経済予測も、こうしたシナリオをメインシナリオと置いているように見受けられるが、感染の再拡大のリスクを含め、経済活動が本格的な回復に至るまでのプロセスについては、依然として不確実性が大きいと考えられる。表1 各機関による経済成長率見通し2020年2021年世界日本世界日本民間予測(ESPフォーキャスト調査)()内は年度▲4.9%(▲5.4%)2.4%(3.3%)IMF▲4.9%▲5.8%5.4%2.4%世銀▲5.2%▲6.1%4.2%2.5%OECD▲6.0%▲6.0%5.2%2.1%(出典)日本経済研究センター「ESPフォーキャスト(7月号)」、IMF“World Economic Outlook Update”(2020年6月)、世銀 ”Global Economic Prospects”(2020年6月)、OECD ”Economic Outlook”(2020年6月)また、経済社会や産業構造に関しては、感染症の動向にとどまらず、いくつか留意すべき点があると考えられる。感染防止に伴う個人・企業の行動変容は、経済社会の構造を非連続的に変化させ、国際社会の様相にも大きな影響を与える可能性が高い。今後、短期的には国際的なヒトやモノの流れが感染症流行前の状況に戻らない可能性もあり、経済成長が前期比プラスで推移しても、GDPが新型コロナウイルス感染症前の水準に戻るには、一定の時間を要することが見込まれる。こうした中で、経済社会の変革への対応の成否が、日本経済の回復スピードを左右すると考えられ、政府としては、財政・金融にとどまらず、成長戦略・規制緩和等の総合的な取組みを進めていく必要がある。・まず、業種毎の影響をきめ細かく分析する必要がある。新型コロナウイルス感染症は経済全体に大きく影響を与えているが、影響は業種によって様々である。スーパーや家電量販店の一部等では外出自粛に伴う巣ごもり需要が発生し、緊急事態宣言下でも比較的堅調な売り上げを維持している。一方で、外食・宿泊等のサービス業では、足もとでは持ち直しの動きがみられるが、引き続き厳しい状況にある。自動車生産も、国内外での需要の弱さから厳しい状況にある。・デジタル化については、テレワークやオンライン会議の急速な普及に代表される働き方の変化や、電子商取引の普及、教育・医療といった分野のオンラインへの移行の加速など、既に大きな変化が生じている。同時に、緊急経済対策等による支援や行政サービスの手続については、マイナンバーやマイナンバー・カードを更に活用するなど、行政サービスの利便性・効率性を向上させる取組みを加速していくことが求められている。・今回の感染症の拡大によって、マスクを始めとする衛生用品の調達や、サプライチェーン寸断による国内の生産活動への影響など、日本のサプライチェーンの脆弱性が明らかになった。今後、生産拠点の国内回帰や多元化・複線化など、サプライチェーンの強靭化が進むことが想定される。同時に、強靭な国際経済社会の構築に向けて、保護主義に陥ることなく、各国と緊密に連携していく必要がある。・当面の経済財政運営にあたっては、新型コロナウイルス感染症拡大への対応について、国民の生命と経済社会を守り、不安を解消していくことが最優先で ファイナンス 2020 Aug.5新型コロナ感染症対策に係る資金繰り支援について 特 集

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