ファイナンス 2020年8月号 No.657
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本稿では、企業規模の観点から、日本企業の労働生産性を高めるために資本装備率を上昇させることの必要性を議論する。労働生産性の概況・生産年齢人口の減少が進む中で、所得水準を維持するためには、就労者一人当たりの付加価値生産(労働生産性)を上昇させていくことが必要とされる(図表1)。・OECDデータに基づく日本の一人当たりGDPは2018年データで21位であり(図表2)、先進国の中で労働生産性の水準は低いといえる。・国内の規模別企業数を見ると、中小規模の企業の割合が高い(図表3)。近年では、国内企業の大部分を占める中小企業の労働生産性の低さが、国全体の労働生産性の低迷につながっているという指摘もなされている。図表1 国内人口の推移0150(百万人)(%)65歳以上人口0-14歳人口15-64歳人口割合(右軸)15-64歳人口20.040.060.0501000.080.01950607080901020304050602000図表2 就労者一人当たりの労働生産性20151050アイルランドルクセンブルクアメリカノルウェースイスベルギーオーストリアフランスデンマークオランダイタリアオーストラリアドイツスウェーデンフィンランドアイスランドスペインカナダイギリスイスラエル日本購買力平価後USドル(万)図表3 企業規模別企業数大企業1.1中規模企業53 小規模企業305 2016年企業総数359万社(万社)中小企業と大企業の比較・中小企業と大企業の労働生産性を時系列でみると、大企業はリーマン・ショック直後に大きく落ち込んだが、その後は緩やかな上昇傾向にある。一方、中小企業は長らく横ばい傾向で大きな変動はなく、足もとで大企業との労働生産性の水準の格差は拡大している(図表4)。・業種別の時間当たり労働生産性(企業活動基本調査データ)を見ると、卸売業・小売業、宿泊業・飲食サービス業では企業規模による差が比較的小さいものの、全ての業種で中小企業の水準が低い(図表5)。・零細企業を含む時間当たり労働生産性(中小企業実態基本調査データ)の水準は、企業活動基本調査データよりも低く、零細企業の労働生産性がさらに低いことを示している(図表6)。図表4 従業員一人当たり付加価値額の推移大企業製造業大企業非製造業中小企業製造業中小企業非製造業02,000(万円)5001,0001,50020030405060708091011121314151617図表5 時間当たり労働生産性大企業中小企業8,0006,0004,0002,0000(円)学術研究、専門・技術サービス業製造業情報通信業卸売業、小売業生活関連サービス業、娯楽業サービス業(他に分類されないもの)宿泊業、飲食サービス業図表6 時間当たり労働生産性(零細含む中小企業)中小企業(零細含む)6,0004,0002,0000(円)学術研究、専門・技術サービス業製造業情報通信業卸売業、小売業生活関連サービス業、娯楽業サービス業(他に分類されないもの)運輸業、郵便業建設業不動産業、物品賃貸業宿泊業、飲食サービス業コラム 経済トレンド74前大臣官房総合政策課 調査員 関 祥吾/村田 亮 大臣官房総合政策課 調査員 石神 哲人/志水 真人中小企業の労働生産性について(注1)大企業は資本金10億円以上、中小企業は1億円未満の企業とする。(注2)図5,図6.2015年度における労働時間1時間当たりの付加価値額を示す。(注3)図5.付加価値額=営業利益+(給与総額+福利厚生費)+動産・不動産貸借料+租税公課+減価償却費(注4)図6.付加価値額=労務費+売上原価の減価償却費+人件費+地代家賃+販売費および一般管理費の減価償却費+従業員教育費+租税公課+支払利息・割引料+経常利益(注1)企業数=会社数+個人事業者数(注2)「中規模企業」とは、中小企業基本法上の中小企業のうち、同法上の小規模企業に当てはまらない企業をいう。68 ファイナンス 2020 Aug.連載経済 トレンド

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