ファイナンス 2020年8月号 No.657
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図9 国債市場における固定金利と変動金利の交換のイメージ投資家レポ市場財務省レポ・コストの支払い(典型的にはオーバーナイトであり、変動金利の支払いに相当)固定金利の受け取りBOX 3 LIBOR-OISスプレッド本稿で記載したとおり、6か月円LIBORは半年間の金融機関の信用リスクを有しますが、OISをインデックスとするスワップ・レートはオーバーナイトの金融機関の信用リスクのみ有するため、後者の信用リスクはごくわずかと解釈可能です。そのため、その両者のスプレッド(LIBOR-OISの金利スワップ・レート)を取ることで、短期的な金融機関の信用リスクを測ることができます。このスプレッドはLIBOR-OISスプレッドと呼ばれ、銀行の信用リスクの指標としてしばしば用いられます。例えば、2008年の世界金融危機における金融機関の信用リスクを把握するうえでLIBOR-OISスプレッドが用いられる傾向があります。なお、LIBOR-OISスプレッドは様々な期間の金利を用いることで算出ができますが、3か月のLIBOR-OISスプレッドが最も良く用いられる印象です。LIBOR-OISスプレッドは実務的に多く使われるだけでなく、実証研究などでも頻繁に用いられています。ちなみに、LIBOR-OISスプレッドに類似した指標としてTEDスプレッドがあります。これは米国財務省短期証券(T-bill)と米ドルLIBORのスプレッドであり、米国市場における金融機関の信用リスクを測る指標としてしばしば用いられます*21。*21) タックマン(2012)では、「TEDスプレッドの名前の由来はトレジャリーのTとユーロ・ドル先物のEDからきており、もともとはトレジャリー・ビル先物とユーロ・ドル先物を比較するために使われていたが、トレジャリー・ビル先物は現在では活発に取引されていない」(p.367)と指摘しています。参考文献[1]. 大岡英興・長野哲平・馬場直彦(2006)「わが国OIS(Overnight Index Swap)市場の現状」日銀レビュー[2]. 杉本浩一・福島良治・若林公子(2016)「スワップ取引のすべて」きんざい[3]. ブルース・タックマン(2012)「債券分析の理論と実践(改訂版)」東洋経済新報社[4]. 服部孝洋(2017)「ドル調達コストの高まりとカバー付き金利平価」ファイナンス10月号、56–63.[5]. 服部孝洋(2019)「イールドカーブ(金利の期間構造)の決定要因について―日本国債を中心とした学術論文のサーベイ―」ファイナンス10月号、41–52.[6]. 服部孝洋(2020)「日本国債先物入門―ファイナン日本国債との裁定(ベーシス取引)とレポ市場について―」ファイナンス2月号、70–80.[7]. ジョン・ハル(2016)「フィナンシャルエンジニアリング〔第9版〕―デリバティブ取引とリスク管理の総体系」きんざい[8]. 三菱東京UFJ銀行(2014)「デリバティブ取引のすべて~変貌する市場への対応~」きんざい[9]. Corb, H. 2012. Interest Rate Swaps and Other Derivatives. Columbia Business School Publishing. ファイナンス 2020 Aug.65シリーズ 日本経済を考える 103連載日本経済を 考える

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