ファイナンス 2020年8月号 No.657
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かります。これはつまり、大手行は国債への投資と並行してスワップを受けることで金利リスク量を増やしており、いわばトレーディングのような形で金利スワップを活用していると解釈することもできます*19。*19) 銀行がローンなどの金利リスクをヘッジする場合、想定元本が期中減少していく金利スワップ(アモチ・スワップ、アモチゼーション・スワップ)を用いることがあります。*20) 例えば、最初の半年間、1億円借りて、6か月円LIBORを支払います。半年後に1億円の返済が必要ですが、そのタイミングでまた1億円を6か月円LIBORの金利で借りてくるということで借り入れをロールすることができます。例えば、これを10年間ロールすることで当初1億円借りてきて、その間、半年毎に6か月円LIBORを支払い、10年後1億円を返済するというキャッシュ・フローを作ることができます。4.おわりに本稿では金利スワップについて、債券、特に国債との類似性に着目した説明を行いました。実際の金融市場では金利スワップは国債と同じようにトレーディングされており、その両者の裁定が活発になされています。次回はその裁定を行う取引であるアセット・スワップについて取り上げることを予定しています。なお、本稿より実務的な内容で金利スワップに関心がある読者は杉本・福島・若林(2016)やCorb(2012)などをご参照ください。BOX 1 金利スワップにおけるキャッシュ・フローの複製ここでは金利スワップと国債のキャッシュ・フローの類似性を考えるため、少し厳密に両者のキャッシュ・フローについて考えていきます。仮に、スワップ・レートが1%である10年の金利スワップを想定元本1億円分受けた場合、10年間、毎年100万円の固定金利を受け取る一方、半年ごとにその時々の6か月円LIBORを支払うことになります。金利スワップは期中の金利を交換する金融契約ですので、当初と期末に資金の受払はありません。一方、10年国債へ1億円投資した場合のキャッシュ・フローはどうでしょうか。仮に利回り1%の10年国債へ投資した場合、当初1億円支払う一方、10年間、年間100万円の利子を受けてとり、10年後の満期に国債が償還され、1億円を受け取ります。このキャッシュ・フローは図8の左上に記載しています。ただ、前述のとおり、国債へ投資する際はその資金調達を考えなければなりません。国債投資の資金調達を行う場合、レポ・コストで調達することも可能ですが、ここでは通常の金利スワップとの類似性を考えるため、その時々の6か月円LIBORを金利として支払うことで調達できると想定しましょう*20。これは当初1億円を金融機関から借りてくる一方、半年ごとに6か月円LIBORを支払い、最後に1図7 銀行の金利リスク量-30369-2002040601012大手行地域銀行信用金庫16181012161810121414141618(兆円)(%)(年度)金利スワップ調達債権貸出対自己資本比率(右軸)注:日本銀行「金融システムレポート」より抜粋。ここでは金利リスク量は銀行勘定の100bpv(金利が100bps金利上昇した際の損失額)で算出しています。 ファイナンス 2020 Aug.63シリーズ 日本経済を考える 103連載日本経済を 考える

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