ファイナンス 2020年8月号 No.657
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高い利回りを有していますが、その一因はスワップ・レートには金融機関の信用リスクなどが付されているからです(この詳細は翌月のレポートで議論します)。図6  日本国債と円金利スワップのイールド(スワップ)カーブのイメージ-0.1512345678910-0.1-0.0500.050.10.15(年限)(%)日本国債円金利スワップちなみに、10年の金利スワップを受けたとしても、そのポジションをアンワインド(キャンセル)することができます。実務的には、近い年限のスワップを払うことでヘッジすることもできますが、これはロングしている10年国債に近い年限の国債を売却してヘッジしているイメージです。この考え方を発展させ、例えば10年の金利スワップを受ける一方、2年の金利スワップを払うことで、10年の国債をロングし、2年の国債をショートすることと類似したポジションを構築することができます。これは10年と2年金利のスプレッド(10年金利-2年金利)を収益化するポジションといえます。円債市場においてこのような取引は実際に膨大になされていますが、スワップの受払を国債のロング・ショートとして解釈することで、このような取引がイールドカーブの形状を利用したトレーディングであることを理解することができます。このケースでは10年金利が2年金利に対して低下した場合(例えば2年金利が変化せず、10年金利が低下した場合など)に利益が上がるため*16、カーブがフラットになることで利益が上がるポジションと解釈できます。このようなポジションをフラットナーとい*16) 10年国債をロングしている場合、10年金利が低下すれば10年国債価格が上昇し、投資家は価格上昇益(キャピタルゲイン)を得ます。一方、2年国債をショートした場合、2年金利が上昇すれば、2年国債の価格が下がるため利益が得られます。*17) タックマン(2012)では金利スワップに関する金利リスク量(DV01)について、「固定金利の受け手から見たスワップのDV01は固定キャッシュフローのDV01から変動キャッシュフローのDV01を引いたものと等しい」(p.392)としています。BOX 1で説明するとおり、6か月円LIBORをインデックスとする10年金利スワップを受けた場合、このキャッシュフローは(1)10年国債をロングし、(2)6か月円LIBORを変動金利とする10年の変動債をショートすることでキャッシュ・フローを複製できます。そのため、6か月円LIBORをインデックスとする10年金利スワップのデュレーションは、「10年債ロング(デュレーション:10)」+「6か月円LIBORを変動金利とする10年の変動債ショート(デュレーション:△0.5)」という形で、おおよそ9.5と概算することができます。また、ここでは簡易的にデュレーションを年限と一致させていますが、10年国債のデュレーションは(クーポンに依存しますが)10より若干小さくなる点に注意してください。これらの理由に関心がある読者はタックマン(2012)などを参照してください。また、タックマン(2012)では「実務では通常固定と変動のキャッシュフローのリスクは別々に管理される」(p.392)と指摘しています。*18) スワップではPV01(prevent value of a basis point)というリスク指標が用いられることが少なくありません。PV01はスワップ・レートが1bps変化した時のスワップの価値の変化に相当します。い、この表現は円債市場で頻繁に用いられます(逆にカーブがスティープになることで利益を得るポジションをスティープナーといいます)。例えば10年国債の入札時に、2年債や5年債の金利と比較した割安・割高感で投資家がどの程度積極的に応札するかを考えることが少なくありませんが、このような相対価格に注目した投資戦略を相対価値(レラティブ・バリュー)戦略といいます(レラティブ・バリュー戦略の詳細は服部(2020)のBOX 2を参照してください)。3.3 金利スワップの金利リスク量金利が変化することに伴う価格の変動を金利リスクといいますが、金利スワップが有する金利リスク量についても国債と同じように考えることができます*17。例えば、国債の金利リスク量は「デュレーション」で把握されますが、デュレーションの基本的なアイデアは、国債の年限が長くなるほど、キャッシュ・フローを固定する期間が長くなるため、金利の変化に伴う価格へのインパクトが大きくなるというものです。金利スワップも債券と同じ性質をもつがゆえ、このロジックは金利スワップにもそのまま適用できます。例えば、10年国債のデュレーションはほぼ10程度ですが、10年スワップのデュレーションもおおむね10に近い値をとり、10年国債とほぼ同じ金利リスク量を有します*18。図7は銀行等が有する金利スワップの金利リスク量を示しています。この図から読み取れることは、地域銀行の金利スワップの金利リスク量はマイナスの値を示しており、金利スワップが全体として金利リスクを低下させる役割を果たしていることです。これは、地域銀行は金利スワップを払うことにより保有している債券やローンの有する金利リスクを低下させていると解釈できます。一方、大手行の場合は、金利スワップが債券と同程度の金利リスク量を有していることがわ62 ファイナンス 2020 Aug.連載日本経済を 考える

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