ファイナンス 2020年8月号 No.657
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危機前は大手行の信用リスクがあまり認識されていなかったことから、金融危機以前はリスク・フリー・レートとして用いられていました*14。また、前述のOISのように信用リスクが限定的である金利スワップも取引されています。実際、現在、LIBORに代替する新たな指標金利について世界中で議論がなされていますが、そこでも新しいリスク・フリー・レートを模索する議論として話が展開されています。スワップ・レートは国債金利などと同様、地方債や社債など、他の債券を発行する際のベースとなる金利としても用いられることがありますが、これも金利スワップ・レートをいわばリスク・フリー・レートに類似したものとして用いていると解釈することもできます。例えば、地方債や社債を起債する際、リスク・フリー・レートに対してどの程度金利が付されるか(スプレッドが付されるか)という観点で発行条件が決まりますが、その基準金利としてスワップ・レートが用いられることがあります。もちろん、LIBORをインデックスとするスワップ・レートを銀行の調達コストと解釈すれば、銀行の調達コストに対して、どの程度金利が上乗せされるか(スプレッドが付されるか)をベースにプライシングをしているとも解釈できますが、かつての国債は個別債券ごとの需給要因などを背景に、必ずしもイールドカーブがスムーズではなかったことから、当時、比較的カーブがスムーズであったスワップ・レートが発行条件に用いられていたという意見もあります。現在は国債の金利をベースとすることが多いですが、例えば、地方債の起債などでは、今でもスワップ・レートをベース金利として用いることがあります*15。3.2  スワップ・レートの期間構造(スワップカーブ)日本国債は年限ごとに異なる金利が付されており、これを金利の期間構造といいますが、金利スワップ・レートも金利の期間構造を有しています。図5は1年の金利スワップの取引と10年の金利スワップの取引の比較をしています。1年のスワップの場合、1年間、*14) 例えば、ハル(2016)は「従来、デリバティブ・ディーラーはLIBORが無リスク金利であるとみなして」(p.314)いたものの、2007年に始まった金融危機で完全に無リスクではないことが認識されたと指摘しています。*15) 商慣行ですが、国債を基準にした場合を「T」ベース、スワップ・レートを基準にした場合は「L」ベースと表現することが少なくありません。固定金利と変動金利の交換をしますが、10年のスワップの場合、10年間、固定金利と変動金利の交換を繰り返すことになります。このケースでは、事前に決められた固定レートとして、1年のスワップ・レートと10年のスワップ・レートがありますが、もちろん、それぞれ異なるレートが付されています。このスワップ・レートは短期から40年など超長期まで存在し、横軸に年限、縦軸にスワップ・レートをとることで、スワップカーブを描写することができます。図5 スワップ・レートの期間構造このレートが年限に応じて変わる(スワップ・レートが期間構造を持つ)読者金融機関(スワップ・カウンター・パーティ)変動金利(例:6か月円LIBOR)1年スワップ・レート1年間交換を継続読者金融機関(スワップ・カウンター・パーティ)変動金利(例:6か月円LIBOR)10年スワップ・レート10年間交換を継続スワップカーブについても、日本国債と同様、基本的には年限が長い契約ほど、高いスワップ・レートが付される傾向にありますが(図6にそのイメージが付されています)、スワップカーブのメカニズムについても国債の金利の期間構造と同様に考えることができます。イールドカーブの決定要因については純粋期待仮説、流動性プレミアム仮説、市場分断仮説がありますが(各仮説の詳細を含む金利の期間構造については服部(2019)を参照)、例えば、純粋期待仮説に基づいて10年のスワップ・レートを解釈した場合、1年の金利スワップを受けたうえで、翌年また1年のスワップを受けるといった形で10年間ロールしていった場合の期待リターンが10年のスワップ・レートと一致するという形で解釈することができます。図6をみると、日本国債のカーブよりスワップカーブの方が ファイナンス 2020 Aug.61シリーズ 日本経済を考える 103連載日本経済を 考える

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