ファイナンス 2020年8月号 No.657
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流動性の低さが問題点として指摘されてきました。もっとも、LIBOR不正問題を受け、LIBORの代替金利が模索されて以降、LIBORをインデックスとしたスワップに代わりうる存在として注目を集めています。2.4  交換する変動金利に応じてスワップ・レートは異なる上記のように、交換する変動金利に応じて様々な金利スワップがあることがわかりますが、大切な点は、インデックスとする変動金利が異なることで固定金利に相当する金利スワップ・レートも異なってくる点です。例えばLIBORをインデックスとする金利スワップの場合、LIBORには銀行の信用リスクが含まれていますから、固定金利と変動金利が等価交換*12であるとするならば、変動金利に信用リスクが含まれている以上、固定金利にも信用リスクが含まれていると解されます。6か月円LIBORである場合、6か月間の銀行の信用リスクを有していると考えられるため、このスワップ・レートには6か月間の銀行の信用リスク分のプレミアムが追加されていると解釈することができます。一方、OISの場合、TONAを用いているため、金利スワップにおける変動金利は1営業日の銀行の信用リスクが反映されていると考えられ、それと等価交換となるスワップ・レートに反映される信用リスクはごく限定的であると解釈できます。その意味では、信用リスクが低い分、6か月円LIBORをインデックスとする金利スワップ・レートに比べれば、OISのスワップ・レートは低いレートが付されていると解釈できます(このスプレッドをLIBOR-OISスプレッドといいますが、その詳細はBOX 3を参照してください)。日銀の資料でもOISのスワップ・レートは「リスク・フリーに近い性質を有しています」と説明されています*13。*12) 原理的には金利スワップにおいて交換する固定金利と変動金利が等価と考えなければ取引が成立しないため、固定金利と変動金利の交換は等価交換と考えることができます。その意味で、金利スワップでは取引した時点での現在価値(Present Value, PV)は0です(実際には業者への手数料などがあるため厳密にはゼロにはなりません)。*13) 日本銀行「わが国の場合、日本円OIS(Overnight Index Swap)─取引の概要と活用事例─」を参照しています。2.5  ベーシス・スワップ(変動金利同士の交換)ちなみに、これまでは固定と変動金利を交換するスワップを前提としてきましたが、変動金利同士を交換する金利スワップも取引がなされており、これをベーシス・スワップといいます。例えば、6か月円LIBORと3か月円LIBORを交換するベーシス・スワップの場合、「3か月円LIBOR+α」と「6か月円LIBOR」を一定期間交換します(この場合、このαをベーシスといいます)。それ以外にも、LIBORとTIBORを交換するベーシス・スワップなど様々なバリエーションがあります。なお、実務でベーシス・スワップと呼んだ場合、通貨スワップ(Cross Currency Basis Swap)を指すことも少なくありません。通貨スワップの場合、例えば3か月円LIBORと3か月ドルLIBORの交換など、異なる通貨の金利を期中交換します。通貨スワップの場合、異なる通貨の元本を当初と満期にも交換するのですが、服部(2017)では為替スワップとともに、通貨スワップの仕組みについて説明しているため、詳細はそちらをご参照ください。3.国債との類似性を考えるメリット3.1  リスク・フリー・レートとしてみたスワップ・レート上記のように国債への投資と金利スワップを受けることは類似的な金融契約であると解釈できますが、冒頭で記載したとおり、金利スワップと国債を類似の金融契約とみなす最大のメリットは国債で用いる諸概念を、金利スワップを理解する際にもそのまま用いることができる点です。例えば、国債の金利は安全利子率(リスク・フリー・レート)とされますが、前述のとおり、金利スワップの中にもリスク・フリー・レートと解釈されるものもあります。スワップ契約が等価交換であることを考えれば、LIBORをインデックスとする金利スワップのスワップ・レートにはその定義から大手行の信用リスクが含まれます。もっとも、金融60 ファイナンス 2020 Aug.連載日本経済を 考える

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