ファイナンス 2020年8月号 No.657
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なります。LIBORとはロンドンのインターバンク市場における大手銀行によるオファー・レートに基づく指標金利です。具体的には世界の主要銀行がオファーするレートのうち、上下25%を除いた残りの50%の平均値(ロンドン時間の午前11時時点の値)を算出します。LIBORはドル、ユーロ、円などの通貨別および3か月、6か月などの期間別に公表されています。LIBORの重要な点は実際に取引があった金利ではなく、あくまで各銀行によるオファー・レート、すなわち、銀行が提示する金利により構築される指標金利である点です。LIBORを主要銀行の調達金利と説明する書籍もありますが、実際にはその水準で調達できるとは限りません。そのため、LIBORはあくまでオファー・レートに基づいた指標金利と解釈するほうが正しいと筆者は考えています。LIBORは2012年に不正操作の問題が発覚しましたが、その一因は実際に取引がなされている金利でなく、各社が恣意的に提示しうるオファー・レートに基づいていたからです。LIBORの不正問題をうけ、現在、LIBORに代わる新しい金利が模索されています。これまで円金利で用いられてきた代表的な金利スワップは6か月円LIBORをインデックスとしたものですが、6か月円LIBOR以外をインデックスとするスワップも取引がなされています。例えば、3か月円LIBORをインデックスとする金利スワップやTIBORと呼ばれる指標金利をインデックスとした金利スワップも取引されています。TIBORとは、「Tokyo Interbank Offered Rate」の略で、午前11時時点において全銀協TIBOR運営機関が選定した金融機関がオファーしたレートを一定のルールで平均化することで算出します*7。TIBORは東京市場の指標金利ですが、欧州市場での銀⾏間取引⾦利であるEURIBOR(Euro Interbank Oered Rate)なども存在しており、これらを総称してIBORということもあります。*7) TIBORには本邦無担保コール市場の実勢を反映した「日本円TIBOR(DTIBOR)」と本邦オフショア市場の実勢を反映した「ユーロ円TIBOR(ZTIBOR)」があります。*8) TONAは日銀が算出しています。コールレートの加重平均値は、算出対象取引のレートを、3社の短資会社から提供されるデータをもとに、レート毎の出来高で加重平均したものです。速報値は当日の午後5時15分ごろ、確報値は翌営業日の午前10時頃公表されます。詳細は日銀による「「コール市場関連統計」の解説」などを参照してください。*9) 日本銀行(2018)「日本円OIS(Overnight Index Swap)-取引の概要と活用の事例-」では金利の計算例を紹介しているので、詳細を知りたい人はそちらを参照してください。*10) ただし具体的な計算方法はISDAの定義に準じます。*11) 大岡・長野・馬場(2006)を参照してください。翌日物金利スワップ(Overnight Index Swap、OIS)最近特に注目を受けているのが、翌日物金利スワップ(Overnight Index Swap、OIS)と呼ばれる取引です。OISは変動金利として無担保コール翌日物金利(Tokyo OverNight Average rate, TONA)を用いるスワップです(図4)。TONAとは金融機関同士が無担保で1営業日借り入れた時の金利に相当しますが、日銀がオペレーション(公開市場操作)を行う際に誘導する短期金利としても有名です*8。その意味で、OISは日銀の金融政策に最も影響を受ける金利スワップと解釈できます。OISは様々な局面で用いられていますが、例えば、日銀の利上げ確率を算出する際に、OISから算出したフォワード・レートが実務的に用いられる傾向があります(フォワード・レートや利上げ確率については服部(2019)を参照してください)。図4  翌日物金利スワップ(Overnight Index Swap、OIS)のイメージ読者金融機関(スワップ・カウンター・パーティ)6か月毎にTONA(無担保コール翌日物)の複利を支払うなど固定金利(スワップ・レート)1年など一定期間交換を継続OISは金利スワップの初学者にとってわかりにくいスワップですが、筆者の印象では変動金利が「後決め複利」になっていることが一因です。OISがインデックスとするTONAは1営業日の金利ですが、スワップの受け手は事務の手間などを考えれば実際には毎営業日TONAを支払うわけにはいきません。そこで、TONAの6か月複利など一定期間の複利を変動金利として支払う一方、固定金利を受けるという制度設計がなされています*9(ここでの「後決め複利」とは金利計算区間の実現複利で最終的な金利が決まることを指しています*10)。我が国おけるOISは1997年半ば頃から取引が始まったとされていますが*11、長年、その ファイナンス 2020 Aug.59シリーズ 日本経済を考える 103連載日本経済を 考える

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