ファイナンス 2020年8月号 No.657
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金融機関が国債を保有する場合は、そもそも自分でその資金を調達してこなければならないことが少なくありません。金融機関が日本国債で運用を行う場合、国債への投資(国債のロング)に伴い、(1)固定金利を受け取ることができる一方、(2)その投資資金の調達コストを支払う必要があります。したがって、もし銀行がその時々の金利で短期調達した場合、当然その時々の金利を支払うことになります。例えば、図3のように利回りが1%である10年国債に投資する場合、銀行は10年間、年率1%という事前に定められた固定金利を受け取る一方、仮に半年という短期でその投資資金を調達した場合、半年ごとにその時々の金利を支払う必要があります。そのため、国債への投資も、資金調達まで含めて考えれば固定金利と変動金利の交換をしていると解釈することができます(ここでのキャッシュ・フローについてはBOX 1で詳細に説明をしているため、そちらをご参照ください)。ちなみに、実務的には、国債を保有する場合、国債を担保に1営業日など短期の資金調達をすることができるため、レポ・コストを支払うことになります(レポの詳細はBOX 2を参照してください)。図3 固定金利と変動金利の交換という観点でみた国債への投資銀行日本国債市場変動金利(例:6か月円LIBORやレポ・コスト)固定金利10年など一定期間固定金利を受け取り短期金融市場10年など一定期間変動金利の支払い固定金利と変動金利の交換と解釈可能以上のように、「固定金利を受ける」ことは「国債のロング」と同じ経済性を持ちますが、国債をショートした場合はどうでしょうか。国債をロングした場合、固定金利を得て、変動金利を調達コストとして支払うわけですが、国債のショートは、買い手の反対側*6) 三菱東京UFJ(2014)では、2006年ISDA Denitionsにおいて、日本円に関する指標だけでも、LIBORやTIBORを中心に21種類が定義されているとしています。の立場に立つことですから、逆に固定金利を払い、変動金利を受け取ることを意味します。そのため、国債のショートは、金利スワップにおいては「固定金利を払う」ことと類似的な経済性をもちます。これらに鑑みると下記の関係がいえます。国債のロング(ショート)≒金利スワップの固定受け・変動払い(金利スワップの変動受け・固定払い)繰り返しになりますが、国債への投資(国債のロング)も、資金調達という側面まで考えれば、固定金利を受け取り、変動金利を支払う経済行為と解釈可能であり、キャッシュ・フローの特性を見れば金利スワップと類似性が高いと解釈することができるわけです。国債に投資する場合、その金利水準が投資家にとって魅力的であればロングすればよいし、そうでない場合はショートすればよいわけです。国債の場合、このように判断することは当たり前のように感じるかもしれませんが、スワップについても全く同じように取引されています。固定金利に相当する金利スワップ・レートの水準が魅力的であれば投資家は金利スワップを受けます(国債のロングに相当)し、割高だと考えれば払う(国債のショートに相当)ということをします。実際に、円金利市場では円金利スワップは国債とほとんど同じように取引がなされており、市場環境次第では日本国債以上に円金利スワップの流動性が高いと指摘されることもあります。2.3  金利スワップに用いる変動金利LIBORとTIBOR前述のとおり、金利スワップは固定金利と変動金利の交換ですが、変動金利の種類に応じて様々なスワップ・レートが存在します*6。円金利についてはこれまで6か月円LIBORをインデックスとした金利スワップが最も多く取引されています。例えば、読者が6か月円LIBORをインデックスとした10年金利スワップを受ける場合、10年間固定金利を受ける一方で、6か月ごとにその時々の6か月円LIBORを支払うことに58 ファイナンス 2020 Aug.連載日本経済を 考える

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