ファイナンス 2020年8月号 No.657
60/90

過去の「シリーズ日本経済を考える」については、財務総合政策研究所ホームページに掲載しています。http://www.mof.go.jp/pri/research/special_report/index.html金利スワップ入門-基礎編-財務総合政策研究所 研究員服部 孝洋シリーズ日本経済を考える1031.はじめに金利スワップとは固定金利と変動金利など相対でキャッシュ・フローを交換する金融契約です。最初のスワップ取引は1981年における米系投資銀行ソロモン・ブラザーズが仲介した世界銀行とIBMの通貨スワップとされていますが*1、その後、金利スワップの取引が開始されるとその取引規模は順調に拡大し、現在、円金利だけでも30兆ドル*2を超える規模となっています。日本国債の残高がおおよそ1,000兆円程度であることを考えると、円金利スワップの市場は日本国債をも凌駕する巨大な市場とみることもできます。本稿は金利スワップの説明をすることを目的としていますが、本稿の最大の特徴は金利スワップを国債など債券との類似性で議論していくことです。もちろん、金利スワップには信用リスクなど国債が有さない特徴がありますし、金融機関がリスク管理目的などで用いるなど、その投資主体や用途が異なるという違いは看過できません。しかし、筆者は思い切って多くの点を捨象し、金利スワップと債券、とりわけ日本国債が類似的な金融契約であると捉えることで、金利スワップについて本質的な理解が得られると考えています。金利スワップと国債の類似性を考えることの最大のメリットは、金利スワップを理解するにあたって国債に関する諸概念をそのまま適用することができることです。国債を勉強する際、イールドカーブやデュレー*1) 具体的なスキームは杉本・福島・若林(2016)を参照してください。*2) 国際決済銀行(Bank for International Settlements)のデータを参照しています。ションなどの概念に触れますが、これらの概念は金利スワップを理解する際にも活用できます。また、円金利市場では金利スワップは国債のようにトレーディングされており、円金利市場を理解する上でもこの考え方は有益です。実際、日本国債市場では金利スワップと国債の裁定取引が活発に行われており、市場参加者のレポートでも国債入札の動向について金利スワップとの関連で議論されることは少なくありません。本稿では金利スワップの仕組みそのものにフォーカスしますが、次回は国債と金利スワップを直接結びつけるアセット・スワップについて取り上げることを予定しています。2.金利スワップとは2.1  金利スワップ:固定金利と変動金利の交換冒頭で記載したとおり、典型的な金利スワップは固定金利と変動金利を交換するシンプルな取引です(図1)。例えば、読者が証券会社などの金融機関と10年の金利スワップを結んだとしましょう。この場合、読者は事前に決められた固定金利を10年間受け取る一方、その時々の短期金利を金融機関に支払うことになります。この際、受け取る固定金利を通常、「(金利)スワップ・レート」といいます。このケースでは固定金利を受け取っていますが、このような固定金利を受けて変動金利を支払う場合、「金利スワップを受ける56 ファイナンス 2020 Aug.連載日本経済を 考える

元のページ  ../index.html#60

このブックを見る