ファイナンス 2020年8月号 No.657
6/90

1はじめに(1)新型コロナウイルス感染症への対応新型コロナウイルス感染症の経済的影響に対しては、感染拡大の状況と経済活動の抑制状況に適切かつ迅速に応じた経済財政政策が必要となる。活動規制や自粛措置は、新型コロナウイルス感染症以前に健全であった経済主体から瞬時に所得機会を喪失させる面があるため、政策支援は迅速でなければならない。また、新型コロナウイルス感染症は、リーマンショック、ひいては大恐慌といった人類史的規模のショックとなっており、政策支援にも必要十分な規模が必要となる。他方、新型コロナウイルス感染症の医学的・疫学的実態も、各種政策対応の効果についても、未知のことが多く、不完全情報*1と高い不確実性が政策環境を支配している。だからこそ、可能な限り、古今東西の知見と最新のデータや分析に謙虚に依拠しつつ、プロアクティヴかつ大胆な対応が求められる。その際、中長期的視座も忘れてはならない。蓋し、ウィズ・コロナが長引くリスクに加え、ポスト・コロナは新型コロナ以前と同じ状況には戻らないことも認識すべきである。加速したデジタル化・オンライン化、省力化・自動化は不可逆的であり、例えば、物理的移動を伴う需要等は、少なからず回復しない可能性が高い一方、電子取引やテレワークは、一層*1) 例えば、6月1日公表の法人企業統計調査(令和2年1-3月期)は、様々な検討を行った結果、極めて異例ながら「速報」として扱うこととし、混乱を防ぐべく前週にその旨を発表した。当該統計調査の設備投資は四半期別GDPの2次速報に大きな影響がある一方、調査票の回収率が従前より低く、更に2か月程度回収の努力を続けた上で、7月下旬に「確報」を出すことが適切と考えたからである。回収率の低下によって、統計調査の標本誤差率に著しい影響が生じることは見込まれていなかったが、その時点で調査票を提出していない法人の動向が反映されておらず、速報値の調査結果を見る際には、調査票を提出していない法人に、1-3月期において新型コロナウイルス感染症による影響を大きく受けた法人等、調査票を提出した法人とは動向の異なる法人が多く含まれることによって、実勢とは異なる集計結果となる可能性があることに留意が必要であることも併せて注意喚起した。コロナ禍のような厳しい状況であれば、なおさら、ポピュリズムに翻弄されないためにも、エビデンスに基づいた科学的な政策形成(EBPM)が必要であり、その基盤となる統計の信頼性を確保し、誠実なコミュニケーションに努めなければならない。*2) 既に4月から、EUは、新型コロナウイルス感染症後の復興において気候変動対策を重視するグリーン・リカバリーという概念を推進している。欧州復興計画の議論において、その財源について真剣な議論がなされると共に、次世代に負債を残すのであれば、気候変動対策といった将来のための投資に使われるべきという考え方や、加盟国間の具体的合意に向けた努力は、歴史に対して責任のある政治的態度に他ならない。拡がっていくであろう。我が国は官民ともにデジタル後進国であることが更に明らかとなったが、この禍を一気にフロンティアに飛び立つ機会にすべきである。政策においても、現在は止血措置が必要であるが、回復局面ではコロナ後の新たな経済社会構造に適応し、国際競争に打ち勝てるようにする改革を後押しするものでなくてはならない*2。逆に、現下の緊急対応において、迅速化と両立させつつ不正や不公平を排すると共に、コロナ以前から持続可能ではない経済主体まで救済することによる新陳代謝の阻害や、労働の対価でない給付を続けることによる労働意欲の減退といった、モラルハザードやインセンティブの歪みを極小化する知恵も必要である。さて、政府においては、令和2年1月16日に最初の国内感染が確認された後、様々な対策を実施してきた。まずは、感染拡大を防止し、早期に収束させるとともに、雇用の維持、事業の継続、そして生活の下支えを当面、最優先に全力で取り組む観点から、2月から3月にかけて、「新型コロナウイルス感染症に関する緊急対応策」の第1弾及び第2弾、更には「生活不安に対応するための緊急措置」と、金融措置を含め、総額2兆円規模の緊急に対応すべき対策を臨機応変に講じ、直ちに実行してきた。また、海外発の下方リスクに対応する等の目的で令特集新型コロナ感染症対策に係る 資金繰り支援について前総括審議官 神田 眞人2 ファイナンス 2020 Aug.特 集

元のページ  ../index.html#6

このブックを見る