ファイナンス 2020年8月号 No.657
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応能力を高めるためには、CMIMの総額(現在2400億ドル)の範囲内であれば、個別国に個々の上限を超えてドル資金の引き出しを許容する例外的なアクセスを制度化することも検討に値しよう。また、CMIMでは、発動要請を行った国(要請国)に対し、原則として他の参加国すべてが、要請額と同等の要請国通貨と引き換えに自らの所有するドルを提供することとなる。ASEAN当局、特にASEAN-5と呼ばれる国々(尼、泰、星、馬、比)と議論していると、現在の仕組みでは、彼らが危機に陥ってCMIMの発動を要請する場合に、域内の後発途上国からもドル資金の供与を受けることに違和感がある旨の話も聞く。そこで、例えば、経済発展の度合いや経済政策フレームワークの成熟度に応じて、CMIMを新興国と後発途上国向けのファシリティに分け、資金の出し方を工夫するといったことも検討に値するだろう。そのほかにも、貸付金利水準の検討、域内での現地通貨利用状況の進展と合わせてCMIM引き出し資金にドルに加えて現地通貨を活用することや、更にはサーベイランスユニットしてのAMROの能力向上やCMIMそのものの利便性向上の状況を踏まえ、CMIM資金の発動をどこまでIMF資金支援とリンクさせ続けるかといった点も、長期的な課題となるだろう。4.結語以上、簡単ではあるが、AMROの概況紹介、私のグループの紹介、及び個人的な意見として、今後のASEAN+3における地域金融協力の方向性を述べさせていただいた。年初以降、AMROが所在するシンガポールもコロナウイルスの影響を大きく受けており、4月以降、サーキットブレーカーと呼ばれる事実上のロックダウンが発動され、オフィス内での勤務に厳格な制限がかかるなど、市民生活は大きく制限された。6月に入り、そうした制限は徐々に緩和されてきているが、現在も、AMROでは、原則として自宅からの勤務が続いている。市民生活も完全に元通りに戻るまでは当分かかるものと思われるが、こうした中でも、ASEAN+3各国との心理的距離間の近接性といった強みをこれからも生かして、AMROが地域における「信頼されるホームドクター」としての地位を確立できるよう、自らの役割を果たしていきたいと考えている。なお、末筆ではあるが、AMROの広報活動担当としては、AMROのウェブサイト及びSNSアカウントの普及に努めている。特に、日本でのAMROの知名度向上は喫緊の課題であり、財務省広報室等には、折に触れてご協力をお願いしたい。参考:AMROのウェブページQRコード及びSNSへのリンク表3 CMIMの融資制度CMIM安定ファシリティー(CMIM Stability Facility)CMIM危機予防ライン(CMIM Precautionary Line)発動時の状況等‐危機対応‐現実の国際収支及び流動性困難時‐危機予防‐潜在的な国際収支及び流動性困難時事前適格性なしあり [(i)対外ポジション及び市場アクセス、(ii)財政政策、(iii)金融政策、(iv)金融セクターの健全性及び監督(v)データの十分性をもとに判断]満期及び引出可能額●IMF資金支援との協調(IMFリンク)の場合:1年 (ただし、IMF資金支援期間と整合的になるよう必要な回数だけ更新可能)‐日中韓:約400億ドル‐ASEAN5か国(尼、星、泰、比、馬):約230億ドル‐ベトナム:100億ドル‐カンボジア:12億ドル‐ミャンマー:6億ドル‐ラオス、ブルネイ:3億ドル●CMIM単独発動(IMFデリンク)の場合:6か月 (ただし、3回更新可能) 引出可能額は、各国とも上記の30%が上限(出所)各国財務省/中央銀行、AMROホームページにおける公表情報をもとに作成LinkedInhttps://www.linkedin.com/company/amro-asia/Twitterhttps://twitter.com/amro_asia ファイナンス 2020 Aug.55海外ウォッチャーFOREIGN WATCHER連載海外 ウォッチャー

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